この女、正体を隠す気があるとしたら相当馬鹿だな!微妙に一昔前流行ったような小細工しやがって!


「隅から隅まで見ましたよ」


そう返信をすると、一分もたたないうちに返事がくる。


「じゃあ、別れてくれますか?」


ああもう、と携帯を投げそうになる。付き合ってないわ。いっそ、付き合っているっていうことにすることでからかわれている気さえする。この女、私の状況を見て笑いたいんだろうか。


「付き合ってないよ」


よし、解決。だって嘘はついてないもん、という自分の認識が甘かったことを、1分後に返ってきたメールで知らされる。


「付き合ってないのにあの距離感って、おかしいと思います」


そんなこと言われても困るなあ、と私はドライヤーのコンセントを挿した。私は恋人ができたことがないから分からないけれど、恋人同士の距離感って、あんなもんなんだろうか。

もっと近くに居て、近づきたくて仕方なくて、登校も下校も一緒にしたくて、なるべく休日も会いたいような距離感が、恋人同士なのかと思っていたけどそれは違うのだろうか。


陽一とは本当に何でもないんだよ、と言えば嘘になるし、私は誰かにそう言ったことは一度もない。でも、


私たちがキスをしたことは、きっと誰も知らない。

思い出したくない、と思うと私はなんだか下手に出るのが腹立たしく思えてきた。




「なにが言いたいのか分からないけど、私と陽一は幼馴染なの。勝手なこと言わないで」




そう打ってメールを送ると、またすぐに携帯がピコピコ、と鳴ってメールの受信を知らせた。



「忠告したのに。」



言っておくが、私は安易ないじめなんかに屈しないからな!携帯の画面に向かってそう啖呵を切ってから、私は眠りについた。



週明けの教室では予想通りなことが起きていた。いつも通り普通の時間に登校した私は、すでに集まっていた生徒から一斉に視線を浴びる。



「……芸がないな……」



そう言いながら、人の集まっている黒板に目を向けて具体的に認識すると、私はつい言葉につまった。

予想外だったのは、使われていた写真の中の1枚が昨日、ノリくんに抱き寄せられた一瞬が含まれていたことと、ノリくんと私の盗撮ツーショット数枚のほかに、私と陽一が並んで歩いているところも一緒に貼られていたところだ。