きみを守る歌【完結】

隣をちらりと見ると、髪色と目つきを除けばすごく真面目できちんとした社会人が歩いている。


「もうすぐ夏休みだよ。ワクワクするよね」

「はあ、学生の気持ちに共感を求められても」


こないだまで学生だったくせに急に大人ぶってと思ったけれど、そういえばあれは仮の姿なんだった。今思えばあれがありえないくらい、ノリくんは大人っぽいと、思う。



「ていうかこんな時間まで付き合ってくれてありがとう。霜田先輩、まだ家に帰らないの?」

「ああ坊ちゃんは最近遅くまで学校に……あれ」


語尾を変な風に切ったな、と思ってノリくんを見上げると、ノリくんは続きの言葉を忘れたように遠くを見ている。どうしたんだろう、と思ってノリくんの視線の先を見ると、私のよく見知った顔があった。


陽一が、どう見ても年上の大人の女の人と歩いている。



「あれ、あなたの彼氏じゃないんですか」


ノリくんはさほど興味がなさそうにそう言う。


「付き合ってないってば。何でみんなして勘違いするかな」

「へえ、誰が見ても付き合ってるように見えましたが」

「え、何で?」


女の人が陽一の腕に自分の腕を絡んで、陽一もまんざらでもない顔で、何か談笑しながら歩いている。反対側の歩道を、すれ違うようにして通り過ぎていく。

陽一に姉はいない。


誰だろう、と思いながら見ていると、突然ぐいっとノリくんに引き寄せられた。


「……っ」


近い、と思った次の瞬間に、歩道を走っているとは思えないスピードで自転車が、ジャッと音を立てて私のすぐ横を抜かしていった。


「注意欠陥症ですか!?」

「あ、ご……ごめんなさい」


イヤでもあれは早すぎるでしょう、という文句を、とっさに言うことができない。今考えたことは間違いなく、勘違いだったと、思ったすぐ直後に気づいたからだ。



慰められたのかと、思ってしまった。





家に帰ってお風呂に入ったのち、携帯を開くと登録されていないアドレスからメールが入っていた。
頭をタオルドライしながらメールを開くと、辟易するような文章が書かれている。



「写真、見てくれましたか?」



暇だなこの女!ていうか世の中、勘違いだらけだな!イラッとして差出人を見ると、登録はしてないものの、アドレスがseiram_s2@doqumo.ne.jpと表示されている。