「は、すみません。いちごパフェください。2つ」

「注意されるたびに注文してなかったことにしようとするのやめなよ……」


私がそう呟くとノリくんが口元だけで「うるせえ」と言った。もうこの人、二つ人格を持ってるんじゃないだろうか、キャラとかじゃなくて。


「ところでノリくん、今日で勉強教えてもらうの最後でいいよ。ありがとうございました」

「は?この数日間で、何か身になったんですか?私は別にいいですけど」


ノリくんは、その見た目にそぐわずパフェをすごく丁寧に食べている。……面白い絵面だなぁ……。とりあえずあの写真沙汰にノリくんを巻き込むわけにはいかない。私はまた今朝の手紙のことを思い出して話そうかまた迷ったのちに、なんとか押しとどめる。

なんでもしゃべりたくなる癖ははやめに直しておかないと。


「うん、これで全教科満点取れそうだから」

「脳内お花畑もいいところですね!」


私に勉強を教えるたびに深い絶望を感じると言っていたノリくんは、またすごく悲しいものを見るような目で私を見てくる。私も悲しくなってくる。


「とりあえずありがとう。また縁があれば会いましょう」

「ちょっと空気重くするのやめてくださいよ。まあでもこれでせいせいしました。パフェ食べたら出ましょうか」


相変わらずクールで当然だけど私に興味がなさそうで、さらさらの金髪を揺らしてるノリくんは、惚れるほど好きじゃないけど、嫌いじゃない。


「え、今日は最終日なので私が払います!!」

「ああもう毎回ゴチャゴチャ言わないでください鬱陶しい」


ノリくんは伝票を私に見せてもくれず、払い終わると乱暴に私のシャツを掴んで店から引きずり出した。認められない私は出てからもノリくんに食い下がる。


「おごるっていうのは特別な異性にすることだよ!」

「さすが高校生らしい、クソガキな意見を押し付けてきますね」

「私勘違いするよ!」

「いいんじゃないですか、人生のほとんどが勘違いで構成されてる人間には今更でしょ」


へえええ、社会人の常識は分かんねえぇと思っているとノリくんが鬱陶しそうに「歩いてくださいよ」と振り返って言った。

日が暮れた街を歩いていると、時間帯だからか、疲れたように歩く人たちの姿で歩道が埋まっている。最近は蒸し暑い日々が続いているから、余計に疲れが増すのだろう。