クレープは確かに悪くないけど、まずは試験で赤点を取らないことが先決だ。私のこんな悩みは陽一にはきっと分からないだろう。昨日のノリくんの鬼の顔を思い出して背筋が凍る。昨日は教科が悪かったんだ、私だって数学以外は得意なんだから。



バンッ!!という音を立てて机が鳴る。


「キャ――――」

「だああああら、evryoneは単数だって言ってるだろうが!!キャーじゃねぇ」


同じファミレス、ノリくんの向かいに座ってはあ……と細い声を出しながら解答を確認する。たしかに、everyone areってなってる。スイマセン……と返事をしながら消しゴムをかけた。


「なんでそんな豹変するの……?」

「ああ、嫌でしたか。坊ちゃんがこういうスタイルを好むもので」

「霜田先輩ドМなの!?」


衝撃的な事実だ。勉強はビシバシ教えられたいタイプなんだ。掘れば掘るほどあの人って訳ありで面白いんじゃないか。


「というよりも、高校2年生の頭じゃないですよあなた!こっちまで頭悪くなりそうです」

「今日の霜田先輩、撮ってきたよ」

「Good job mate」


ノリくんの頭が悪くなることはなさそうだ。私がスマホを見せると、心なしかきらきらとした目つきで私の手元に顔を近づけた。案外ファミレスの机って大きいんだな、とその時に実感する。

そういえばノリくん、金髪のままだけど、ワックスでオールバックにするのをやめたようだ。今日は触っていないみたいで、さらさらとした金髪が、男の人にしては、長い。


「学年違うくせにこんないいアングルで坊ちゃんのこと撮るなんてストーカーですか?だったら殺しますからね。この写真は頂いておきます」


言ってることがめちゃくちゃだ。そんなことを言ったか言わなかったか、とりあえず私はノリくんと連絡先を交換して、霜田先輩の写真を数枚送った。その時ノリくんが当たりを見まわした。


「――?」

「どうしたの」

「今、人の気配がしませんでしたか」

「え、ファミレスの中だし人の気配しかしないけど?」

「……あなたのような鈍感な人間には、分からないでしょうね」


ノリくんは知れば知るほど失礼な人だ。もちろんすごく面白いけど。そう思うとすごい逸材を学校から遠ざけてしまったのか、という気になる。