陽一はさほど驚いていないように、のんびりと答える。


「せいらちゃん?誰だっけ」

「あの、今年の新入生で一番かわいいって有名な!」


へえ、と思ってドア付近を見ると、確かに周りとは一線を画している美女が立っていた。白い肌に華奢な体つきで、小さな顔は抜群に整っている、1000年アイドルみたいな風貌の女の子だ。

うわ、可愛いなあ、と思って見とれていると、陽一が立ち上がって彼女のもとへ行った。


新入生ってことは、1個下かあ。2年生の教室までやってくるなんてすごい勇気だなあ。と、陽一たちのほうを眺めてると、陽一が何やらこっちを指さしながら話していた。やば、小公女セイラがこっちを見ている。なんでだ、余計なこと言ってるんじゃないんだろうな。

あれ、俺の幼馴染なんだけど、最近太ってきてさあ。アレ絶対鈴カステラの食べ過ぎだよね。とか言ってないだろうな!?


「ちょっと、人のこと指さしてなかった?」


戻ってきた陽一にそう訊ねると、陽一は悪びれもせず頷いた。


「今日の放課後空いてるかって言われたから、あの子とクレープ食べに行くからごめんって」

「今初めて聞いたけど!?」

「俺もさっき考えた」


そう言って陽一はかかか、と笑う。ふざけんなどこからどこまでが笑いごとなのか説明してみろと凄みたいところだけど、今日は少しだけ疲れているのが悔やまれる。


「いいじゃん。俺駅前のクレープのクーポン持ってる。行こうよ」

「あー……用事ある、今日は」


さっさと断れない自分にはまあまあ嫌気がさしている。クレープのクーポン、という言葉に全力で釣られそうなのだ。否、ここは自分を強く持つ場面よ、飛鳥!


「へえ、用事って?」

「いろいろ」

「何だそりゃ」


ノリくんに勉強を教えてもらうことが、別に言いにくいことじゃないことは分かっている。だけど何となく言いたくないのは、どうしてなんだろう。

でも陽一だって、何のバイトをしているのかちゃんと教えてくれなかったんだから、私だって話さなくてもいいはずだ。


「いろいろはいろいろ。一人でクレープ食べてきて」

「えー」


陽一はなんだよ、とつまらなさそうに返事をしたのちすぐにあくびをして前に向き直る。そんなもんだ。