「別にヤクザは目指してませんが……そうですね、しいて言えば坊ちゃんを守るのに手っ取り早いからですかね」


まあそのコワモテがあれば、あの筋肉を見せつけられるまでもなく恐れおののくかもしれないな。


「だからキャラも徹底してるんだ。人のことすぐブスブス言って」

「…………」

「本音だったみたいな顔しないで!!」


さっきから何回もさりげなく撤回させようとしてるのに!


「それにしても、使用人ってもっと清潔さに命かけてる感じかと思った」

「私が不潔だと言いたいんですか」

「そうじゃないけど、怖いじゃん。そんなだと、風評被害たたないの。近所の人に『壮也くんは最近、悪い友達とつるんでるのね~』とか言われないの?」

「……」


ノリくんの動きが止まり、眉間に深い皺が刻まれた。それを見て勝った気になった私は饒舌になる。ちょっとさっきの仕返しだ。


「霜田先輩が、そっちとつながりあるとかいう噂立たないの?ノリくんのせいで」

「今すぐ黒染めしてきます」

「先に勉強教えて!!」




次の日、時間ぎりぎりに学校へ着くと陽一が先に来ていた。私に気づくとおっす、とあいさつをしてくる。いつも通りな人だ。


「何かゲッソリしてない?」

「あーいろいろあって……」


昨日のノリくんのせいだ。数学の教科書しか持ってなかった私が悪いけど、私の理解力のなさに途中からスパルタが入ったノリくんはビシバシに怒鳴りながら私に教えたのだ。

抵抗できぬままなんと日が暮れるまで教えていただいたうえに今日までの課題を出されたおかげで家に帰っても休めなかったのである。

まさか私が勉強してたなんて知らないであろう陽一は私の顔を覗き込む。


「何か悩んでんの?太ったこと?」

「あー席替えいつかな!!!」


その時教室に異変が起きた。いきなりザワッとして、教室の中が静まり返る。なんだなんだ、こんな静かにされたら寝ちゃうじゃないか。そんなことを考えているとクラスの男子が戦慄したように陽一のもとへやってきた。


「……よ、陽一……伝説のセイラちゃんが陽一のこと呼んでるぞ」


どうやら陽一の来客に教室の中はざわついたらしかった。セイラちゃんって、小公女みたいで可憐な名前だなぁ。伝説ってことは100年に1度くらいしか姿を見せないポケモンなんだろうか。