なんていい案なんだ!と思った直後には断られていたので私は驚きを隠せない。そのタイミングでイカスミパスタが運ばれてきた。フォークを通しながら私は抗議に出る。


「なぜですか……!」

「忙しいし、義理も愛もないからです」

「何てことを言うの……!」

「恩もないです」

「かつ重あげたじゃん!」

「あれ、米の底まで油を吸っていて最悪でした」


今すぐイカスミをかけてやりたい。というか貸しはあるでしょうよ。この間すごぉく迷惑をかけられたことを、忘れたとは言わせない。と思いつつ私はもっと効果的な交渉手段を思いつく。


「学校での霜田先輩レポートするから」

「乗りました」


やった、やりましたよ私。ノリくん簡単すぎるでしょう。こんなに霜田先輩のことが気になって仕方ない人が、私には「義理も恩も何もない」と言ったけど。身内にしか優しくない俺、って見た目通りだなー!と私は微笑む。

これでテストは大丈夫なはず。花火大会のためならやる気もでる。陽一に頼らずにいい点出してみせるからな。

これが超イケメンの彼氏だったらやる気100倍だったけどな、とふとノリくんを見上げる。ノリくんは金髪ピアスだけど、そういえば今日はスーツをきっちりと着ているからか、学校で見ていた時よりも落ち着いて見える。

霜田先輩みたいに白い肌で中性的な顔、というわけではないけれど、ノリくんの主張の強い顔のパーツは整っていた。



「ノリくん、眉間の皺なくしてみて。もうキャラづくりしなくていいじゃん」

「あなたといると皺が寄るんです」

「いいから!!」


余計なことを言うのが好きだな、この人も。


ふっと顔から力を抜いたノリくんの表情は穏やかで、ずっと親しみやすい人に見えた。え、ちょっと、ノリくんって実はイケメンなんじゃないの……!?私がずっと探してた人……!?近すぎて見えてなかっただけで、実はノリくんが私の運命の人……っ


「な、わけないかー」

「何ですか、人の顔みて落胆するなんて失礼ですね」


スーツだから分からないけど、筋肉バチバチだしな。マッチョは素敵だと思うけど私の射程範囲内ではない。うっかり勘違いするところだった、イケメンに飢えた日々とは危険なものだ。


「ノリくんはなんでそんな強面のヤクザキャラなの?」