「私で遊ばないでくれるかな。簡単にキスして、特別であるかのように扱って」

「特別だよ。飛鳥が信じないだけで」

「軽い……!何でそんなこと言いながら、いつも女の影ちらつかせてんの、何でそれで私が信じると思うの」




問題は他にもある。私たちが消したり引いたりしてどろどろに曖昧になった線を明確にできない理由として存在する、とっても簡単な問題。それを具体的に言葉にするほど私は惨めにはなりたくないし、この男のことを信じられないし、好きになりたくない。




「だって飛鳥は俺のこと好きにならないじゃん」


「好きにならないよ。だから色んな女と遊びつつ私にちょっかい出すの?」


「みんな特別ってこと」




問い詰めたって一緒だ、と一度だけ目を閉じる。切り替えるために陽一のお腹に華麗にエルボーをくらわせて私は教室へ戻った。

深呼吸しながら心をなだめる。さあ気合入れてイケメン探そうっと!!



「う―――ん……」

「どうしたの飛鳥、ようやく勉強が大分やばいことに気が付いたの?」

「なんか……あんまりイケメンいないよねえ」

「まだそんなこと言ってたか!!」


もうすぐテストだよテスト!とももちゃんが私に向かって叫ぶのを、10秒遅れで理解した私はああっと思う。


「いつだっけ!」

「来週だってば!飛鳥あんた、A市の花火大会行きたいって言ってたよね?去年みたいに補習に引っかかって5時まで学校にいたんじゃ、場所取りに完全にやられていい場所で見れないんだからね」

「はっ……!?」


8時から花火が上がる、この地域で最大規模の花火大会では、規模もさることながら人の量が想像を絶するのだと、去年私は学んだはずだ。昼間からお祭りで賑わっているうえに、夕方からはどっと人が増えて電車もバスもイモ洗い状態になる。


「それは嫌だ……!」

「じゃあ勉強しなよ!もう遅いか!ハハ」


ももちゃんが半ギレしながら笑っているので本気を悟る。私ってばうっかりしていて……っ!ああ、こんな時にイケメンがそばに居てくれれば頑張れるのに。テストなんか全教科満点なのに。

そう漏らすとももちゃんがはあ、と苦笑いで溜息をついた。


「いるじゃん、学年一位の秀才かつイケメンが、すぐそばに」

「あー陽一以外で」

「なんでそんなに芹沢が駄目かねえ」