帰り道、陽一が思いの外弱い声でそう言う。一日中外に居たせいで陽一の首が赤くなっている。グローラが促進されていくな、と心の中で笑う。


「でも陽一は助けに来てくれたじゃん」

「結局一緒に閉じ込められたけどな……あーあいつらに全然言い足りねえ」

「ノリくんは謝ってたからいいんじゃない?」

「なんなんだよあいつ態度が半端なんだよ、後半言葉濁しやがって」


確かにな、と思う。ノリくんはあっさりと非を認めたし、私たちに霜田先輩の本当のことを教えてくれた。


「確かにノリくんの立場が謎だよね。自転車のパンクの件とか、加担してるのかと思ってたけど……でも他人を巻き込むのは違うとか言ってたし」


私に怒鳴ってきたり極端に凄んできたり、かと思えばすまない、と謝ったり、言葉遣いもちくはぐなところがあった。


「申し訳ございませんっ!」


いっそこんなことも言ってそうだな。近くから勢いのいい謝罪を聞きながらそんなことを思っていると、陽一が足を止めた。声に驚いたのだろうが、私たちに言ってるわけではないだろうに。


「この声……ノリくんじゃね?」

「え……まさか、ノリくんが、相手がだれであろうとこんな腰90度に折ってそうな謝罪するわけ」

「まさかなー」


一通り笑ってから歩き出そうとすると、さっきよりも大きな声が私たちの耳に届く。


「待ってください、坊ちゃん!」

「知らないよ!明日どうしろって言うんだよ!ノリくんのせいだよ」

「明日は7時半に生徒指導室に来いとのことですので、責任持って早い朝食をご用意致します!」

「スケジュール聞いてんじゃねえよ!」


陽一と私はしばらく無言で立ち尽くした。陽一の顔を見なかったけれど、確実に私と同じ表情をしている自信があった。立ち止まっている間も2人のやりとりが聞こえてきて、見たくない気分が募ってくる。



「飛鳥、録音しろ」

「えっ……!?」


陽一が小声で私にそう指示した。言われたままに携帯を取り出して録音ボタンを押す。そんな悪趣味な、と思いながら気になってつい耳を澄ませる。



「絶対に僕はやってないって証言しろよ!」

「は……しかし先生に鞄の中を見られていますし、厳しいかと」

「できないとか言うなよ!使用人失格だな!それじゃ僕はどうなるんだよ」