想像通りだったから驚かなかったけど、陽一の走りは圧倒的だった。8クラス中5位でバトンを受け取ったのにも関わらず、400メートルを走る中でどんどん他の生徒を抜いて行く陽一の姿も、それを見て湧くギャラリーも、何も予想外なことはない。


ただ私は、陽一は今何を考えて走っているのだろうか、とぼんやり考える。




陽一がゴールテープを切って、観客がより一層沸いて、あぁ陽一はアンカーだったんだと知る。選抜リレーは1~3年合同のクラス対抗だから、3年生がアンカーなのだと思っていた。

息を切らしながら寄ってくる女子にも男子にも、笑いかけている。さっきあんなにイラついたように怒っていた陽一が、関係のない人たちの前ではまったくそれを出さない。もしかしたら走ってすっきりしたのかもしれない、陽一は普段そんなに怒るタイプでもないし。


じゃあどうしてさっきあんなにも怒ったのだろう、と、考えるべきじゃないことを考える。


予想というものはいつも自分の頭がしていることで、すべからく自分の都合のいいようになっているんだ。そんなことは冷静に考えたらいつも理解していたし、それでもいいと思いながら私は夢を見る。けれどそれは陽一を相手にしてはいけないと、それだけはいつも思い続けている。

きっとはまったら最後、出てこられない沼だと思うからだ。




近くのテントの中で、涼しそうな顔をした香住先生が座っている。あぁ格好いいな、と思うと見すぎたせいか香住先生が私に気づいて「どうした?」と声をかけた。

そう言われて自分の表情が芳しくないことに気づく。


「……さっきまで、体育倉庫に閉じ込められてました」

「はあ!?閉じ込められたって、は?」


自分が馬鹿なことも妄想が激しいことも分かっていたから、取り合ってもらえないことも覚悟していたけれど、香住先生はすぐに信じてくれたのでまた惚れそうになった。


「それと、霜田先輩が生徒の財布を盗んでるところ、見ました。だから早めに抜き打ちで、あの人の鞄確認してください。本当です」





「飛鳥、本当に大丈夫だったんだよな」

「悔しいくらい何もされてないわよ」

「悔しがってんじゃねえ……ごめんな、巻き込んで」