陽一がさすがにイラついたように語気を強くしている。当然だ、と思いながらノリくんを見ると、なぜかノリくんは少しだけ申し訳なさそうに眉間にしわを寄せている。強面にもいろんなバージョンがあるんだなぁ、と感心しているとノリくんが何やら言いづらそうに口元を動かした。


「他人を巻き込むのはさすがに駄目だった。申し訳ない」

「ノリくんキャラブレてない!?」

「うるせぇ馬鹿女突き落とすぞ!とりあえず芹沢、リレー出て来いよ、リレー出ないとお前は今度こそ犯人になるぞ」


断言かよ、と陽一がいら立ちながら笑う。


「ていうかツッコミどころ多いだろお前、ノリくんだっけ?自転車のパンクも窃盗も財布も全部もれなく他人巻き込んでるだろうがよ。今回に至っては飛鳥のこと巻き込んでさあ、クズなの?近くにいるなら止めろよ」


「それは……」


それもそうだけど自分が巻き込まれたことはいいのか、と思うと陽一が何を考えているのか分からなくなった。言葉を詰まらせたノリくんに返す言葉を考えていたところで校内放送が入る。


『芹沢陽一くん。選抜リレーの点呼に来てください』



「……とにかく行ってくれ、芹沢。ぼ……霜田はリレーの代役をすでに立てている。そしてリレー中にまた何かやるつもりだ、だから芹沢が出ないことはつまり」

「どうでもいいんだよ。お前ら仲間全員連れて来いよ、そんで飛鳥に土下座しろ」


「おい陽一今すぐ行け。私のことはどうでもいいから今すぐ行かないとチームメンバーにも助けてくれたももちゃんにも顔向けできないでしょうが。そもそも必要なかったはずなのに陽一が来ないせいで校内放送を強いられている人に人件費払えんのか?」

「そんなの、」

「今この瞬間、陽一が私に構ったせいでリレーに出られないことが一番イヤなの!」


そう叫ぶと陽一がそれもそうだな、と声を小さくした。よしよし、ようやく落ち着いたか。最近陽一の扱いがうまくなってきているのかもしれない。動物園の飼育員を志そうか。


「飛鳥、一緒に行くぞ」


「いや、私はノリくんに話があるから」


ノリくんに向き直ろうとすると、陽一に腕を掴まれた。




「お前が見ないならリレーなんか出る意味ないだろ」