「飛鳥から電話かかってきたら、普通そのままポケットにしまって向かうからね。霜田先輩も所詮は馬鹿だね」


そのまま陽一が電話をかけ始めたのでいよいよ拍子抜けしてしまった。なるほど、だからさっき私は携帯を取られたのか。それにしても陽一だって携帯を持っている、と思うと確かに先輩の浅慮は馬鹿げている。


「まあ別にこのまま閉じ込められてもいいけどね。ここで一発、ってのも相手が飛鳥ならいけそう」


「じゃあ私は出るから陽一は一生ここに居てね。そして安らかに地縛霊になれ」

「倉庫とセックスはできないじゃん」

「失せて……」



ももちゃんがすぐに迎えに来てくれることになったので安心する。ああよかった、と胸をなでおろしながら、陽一はどうして終始余裕そうに笑っていられるのだろう、と不思議になる。男の子だから、度胸があるのだろうか。



「冷静に、何で飛鳥はこんなところから俺に電話かけてきたの?」

「……霜田先輩に呼ばれて、ついてきて、携帯貸してって言われたの」



そして携帯は取られたのだ、さすがにここまできて霜田先輩を庇えない。真意は分からないけどなぁ、と思うと陽一が面倒そうにあー、とため息をつく。


「じゃ、やっぱ俺が目的か」

「陽一を閉じ込めてリレーに出させないってこと?」

「意味分かんねぇな。あの人が俺にリレー出ろって言ったんだろ。こんなんじゃ俺は最低の不真面目だし、チームメイトに迷惑かけまくることになる」

「まあ最低なのも不真面目なのも事実だけどね」

「うっせ」


チームメイトに迷惑、間違いない。しかも代役をクラスから立てるんだから私のクラスメイトにも大迷惑だろう、と思ったところで霜田先輩との会話を思い出す。


「そういえば先輩、陽一がチームメイトから総スカンされてるって言ってたけど」

「えっそうなの。興味ないから知らなかった」

「財布盗難事件のせいで心証悪いんでしょ。だったらなおさらすっぽかしたりなんかしたら」

「確実に俺が犯人にされるな……って」

「あ」


ももちゃんは職員室で鍵をひったくってきたらしく、息を切らしながら私たちを助けてくれた。あっさりと閉じ込められた場所から脱出できてよかった、ももちゃんには大感謝だ。眉間にしわを寄せて、心配そうに私と陽一を交互に見たももちゃんは言う。