私は補欠ですらないただの観客だから問題ない、だけど陽一は選手だ。最近はまあ練習も来てたし、今日も出る気でいたんだろう、と思うとやばい、という気持ちが募る。



「何がごめんだよ、やっぱさっきなんかしたのか」

「リレー!」

「あー、それもどうでもいいわ」

「うるさいわ!」

「うわっ急にキレんな」



入口に駆け寄ってドアを開けようと力を入れてみるけど、重いドアは南京錠が引っかかって開かない。さっき霜田先輩、この鍵は飾りだって言ってたのに……!嘘だったのか、いや、霜田先輩が嘘なんかつくわけ……。そもそも何で閉じ込められないといけないんだ。

今何時だろう、リレーは1時半からだったはず。もし間に合わなかったらどうなるんだろう。不真面目な陽一は放棄したことになるんだろうか。私のせいで。



「飛鳥、無理すんな、けがするから。手、赤くなってる」

「駄目じゃんリレー間に合わないと!せっかく陽一選手なのに!」

「あー、先輩のためってか?」

「それもあるけど違うよ、陽一が出たらうちのクラスは余裕でしょ、ああもう何で開かないの」


それもあるけどじゃねぇよ、と陽一は笑う。何でこんな余裕ぶっこいてんだ、と思いながら私はドアを叩いて叫んでみる。なかなか人は通らないだろうな、校舎裏だし。



「誰かー!開けて!」

「これ、先輩が俺を出したくなくてやってたらどうすんの」

「絶対に許さない。誰か開けてよ!誰か通れよ!」

「あーもうお前は本当可愛いね」

「茶化してんじゃ、んっ」



扉を必死で叩く私の後ろで溜息をつくから、振り返ったところで口を塞がれた。



「なっ……」

「あー、薄暗くなかったらよく見れるのに。顔真っ赤だろ、今」

「状!況!!猿にTPOはないんだな!!」


今サカってる場合じゃねぇんだよ!!と怨念を込めて睨むと陽一が察していないように笑う。


「TPOって何か分かってるのかよ」

「タイム・プレイス・オポチュニティ!!」

「時々飛鳥が馬鹿なのか賢いのか分からない時があるよ」


まあでも馬鹿だろうね、と陽一が笑うのでうるっせぇ!!と全力で言い返すと同時に陽一が私の前に何かを出してみせる。あ?と拍子抜けした声を出すと本当に馬鹿だね、と笑われる。