「おい!!」
あれ、よく聞く声だ、と思った瞬間に霜田先輩が私の手をぱっと離した。そして私と距離を置く。振り返るとなぜか陽一が息を切らしたようにそこにいて、血相を変えていて、一瞬しか顔を見ていないけど、怒っていることがよく伝わってくる。
怒っていることがよく伝わってきて、何のためらいもなく倉庫に入ってきて、先輩が奥の方へずれる。陽一が拳を振り上げて、そこで私は事態に気づく。まさか陽一この美しいお顔を……!?
「駄目ーっ!!」
「おいっ!?」
焦ったような陽一の目が視界に入る。きっと今全力でブレーキをかけているだろうけど、もう次の瞬間には陽一の振り上げた拳が私の頬に当たった。
少し痛い、と思ったのと同時に外からカシャ、という音が聞こえる。
「ひっ」
「何庇ってんの馬鹿なの男なの!?」
「霜田先輩を殴らないで!!」
「だからってお前が殴られるな馬鹿!」
「いや、お前が殴ったんでしょ馬鹿!」
気づくとひらりと身をひるがえした霜田先輩は二歩くらいで倉庫を出た。あ、と思った時には「暴行事件の証拠ゲット」と言ってきて、どういう意味だろう、と思った時にはガシャン、という音とともに倉庫の扉を閉められた。
「……えっ」
手をかけても重い扉は開かなくて、叩いてももちろん開かない。倉庫の中のどこに電気があるか分からなくて、奥の方にあるすりガラスからかろうじて光が入ってくるだけで、薄暗い。
「えっ陽一……何これ?」
「いや、大丈夫なのかよ飛鳥?何された?あいつに」
「そんなこと激しくどうでもいいからここから出してよ」
「俺からしたらここから出る方がどうでもいいよ」
「何言ってんの!?」
汗をかくレベルで焦っている私の意見はおかまいなしで、陽一は距離を詰めてくる。眉間にしわが寄っていて、しっかりと機嫌が悪そうだ。
「なんでそんなに怒ってんの、言っとくけど電話かけたのってわざとじゃないんだから―」
「いや、それもどうでもいい」
なんだそれ、何もかもどうでもいいんじゃないか、と思ったところで気づく。今日は体育祭で、午後からは選抜リレーがある。そして今は昼休みだ。閉じ込められてる場合なんかじゃない、と思うと血の気が引いて行いく。
「ごめんっ……!」