「ちょっと何言ってるかわかんない」

「白目剥かないで!!」


恥じらいを込めて言ったつもりが、霜田先輩は肩をすくめてまったく理解不能だという顔をした。黒目が上昇しています!眠いんですか先輩!

え……と落ち着いて状況を整理する。まさか、こんなところまで呼び出しておいて、告白じゃなかったなんて!?


「なんで飛鳥ちゃんそんな動揺してるの?」

「体育倉庫の前で、告白以外にすることってあるんですか?」

「体育倉庫、の言葉の意味分かるかな?」


違ったのか!!


「じゃあ本当に体育を倉庫するつもりで私を呼んだんですか!!」

「意味を知らなかったか……」



まあいいけど、と霜田先輩は取り直したように笑う。ああ行動は不可解だけど、その笑顔さえあれば世の中すべてのことに筋が通る。うっとりとした顔で霜田先輩を見ると、微笑み返される。天国でしかない。


「ちょっと来て、携帯貸して」


霜田先輩が私を手招きしたので仕方なく倉庫に入ると、外気よりも少し冷たい空気が体操服を着た私の腕に当たる。


「私の携帯ですか?どうぞ」

「ありがと」


どうするつもりだろう、携帯に好きだよって書くのだろうか。なんて奥ゆかしいんだろう、最近はロールキャベツ男子とか流行ってるしな。霜田先輩だったら何をしても素敵だから平気だ。


何を打っているのかと期待していると、霜田先輩はなぜかそのまま誰かに電話をかけた。私の携帯から、どうしてだろう。少しすると「あ、出た」と言い、なぜか電話の相手に挨拶をせず私に携帯を返した。

どういうことなのか理解できないまま携帯を耳に充てると、聞きなれた声が入ってくる。


「飛鳥?今の声、誰?」

「陽一?何、何の用?いそがしいんだけど」

「電話かけてきたのお前だよ?」


そうか、と思ってからあれ?と思う。なんで私は今陽一と電話をしているんだろう。


「あれ?何で?私もわかんない」

「大丈夫なのかよ。今どこにいんの?」

「霜田先輩と体育倉庫にいる」

「はっ?何で」

「え、分かんな、イヤアアエエッッ!!!」



足元に何かが過った衝撃で私は携帯を落とした。暗いからあんまりよく見えなかったけど、今、シュッて、何か……ここは埃っぽい倉庫で……


「ネ、ネ、ネズ公ですか……!?」