「霜田先輩のためにお弁当用意してきたんです!だから案内してください」


ノリくんが舌打ちをしたのが聞こえた。そのまま私を鋭くにらみつけて、ノリくんは顔をぐっと寄せてくる。ま、まさかキスされるのだろうか、と思った次の瞬間にノリくんが低い声で私を脅してきた。



「俺は、女には手を上げないとかいうヌルいポリシー持ってねぇんだよ。我慢できなくなる前に失せろ」

「もしかして霜田先輩とんかつ嫌いですか?」

「いや別に嫌いではなかったと思うよ、って聞けよ人の話!!」



ノリくんがなぜ怒っているのか分からなかったけれど、私に背を向けて歩き出してしまったのでとりあえずついて行くことにする。少し足を進めてからももちゃんのことを思い出して振り返ると、なにやら男子生徒に話しかけられている。

そこに戻るのは私も空気が読めないってもんでしょうね!と思って私はノリくんの背中を追った。



たどり着いたのは、3年生の教室がある校舎とは別の校舎の一角だった。物理化学室と書いてあるけれど、私は使ったことがない。こんなところたまり場にしてるのか、と思いながら教室へ入ると、中には霜田先輩の他にも数人の男子がいる。

霜田先輩の姿は見えないけど、と思っていると輝かしくて聞きたかった声がノリくんを呼んだ。


「ノリくんおかえりー!収穫はあった?」


収穫って何のことだろう、と思って顔を出すタイミングをうかがっていると、ノリくんがはぁ、とため息をつきながら顎で私のことをさした。霜田先輩が少し移動して私のことを見つけ、すこし驚いたような顔をしたのち、笑う。



「あー飛鳥ちゃんじゃん!どうしたの」



はあぁ10万ルクス痺れる……!!どうしたのって、あなたの笑顔を見るだけでどうにでもなってしまいそうで候……!


「あのっ、リレー直前ですね!頑張ってほしくて、その、かつ重を」

「リレー?あぁ、あれ午後なのか」

「えっ」


把握してなかったの、と顔を上げると霜田先輩はさほど興味なさそうに窓からグラウンドを一瞥して、また私とノリくんの方に向き直る。


「霜田先輩も出るやつですよ。陽一も」

「そーだったね。うんうん」


なんだか要領を得ないリアクションだ、と思ってノリくんの方を見ると、眉間に固くしわを寄せたままノリくんは何も言わない。


「でも陽一出られるの?」