ももちゃんが呆れながら水筒に口をつけた。この細くて白い腕が、ある程度の運動を要領よくこなしてしまうと思うと、なんだか不公平な気分になる。



「ていうか霜田先輩、飛鳥が購買で凄まれてた時、すぐに助けに来なかったじゃん。信用できない」


えっ何のこと、と思ってから、ノリくんに名前言えよ!って言われた日のことか、と思い出す。


「そんな、でも止めてくれたじゃん」

「うーん、けどなんかなぁ、時間差が不自然なんだよなぁ。胡散臭い」

「先輩のどこもにおわないよ!?清潔感って言う言葉をそのまま具現化したような存在だよ!!」

「臭いって部分だけ切り取らないでよ」


ももちゃんは彼女よりも幾分か背の低い私を、呆れたように見下ろしてくる。ひぇっ美人だけどさぁ、と思って見返すと、ももちゃんの後ろの少し離れたところに、談笑しながら歩く陽一と複数の女子の姿が見えた。

ちゃんと来てるんだ、と安心していると、私の目線に気づかないももちゃんがあー、と暑そうにもらした。


「午後のリレーなんか関係ないのに見なくちゃいけないとか。飛鳥はすごいわ本当。わたしも芹沢もこういう行事には冷静なタイプだから」

「2人ともそうだよね、斜め上から見てる俺かっこいい的なね」

「芹沢が飛鳥を殴りたくなんの分かるね」



暴力反対!と構えをとると想定外に身体のバランスを崩し、後ろに転びそうになったところを背中で誰かにぶつかった。行動に落ち着きがないんだよ!とわたしの100倍取り乱して起こるももちゃんの声を背後に聞きながらぶつかった相手に謝る。



「気をつけろよブス」



「ブスって言う方がブスだっていう当たり前な自然の摂理も知らずこんな罪のない乙女に向かってそんな汚い言葉を投げるなんて可哀想に、今まで生きてきてまともなものを見てこなかったんですね、ところでおのれとわたしどっちがブスなんだブス……ってノリくん!?」

「あ?気安く名前呼んでくれてんなよ」

「霜田先輩はどこ!?」



うるっせぇ話しかけんな!とノリくんが怒鳴ったせいで周囲が私たちに注目する。なんて感情の抑制のきかない人間なんだ、ダダ漏れじゃないか。けれどこないだよりもノリくんが怖く見えないのは、霜田先輩の友達に悪い人が居るはずがないという確信があるからだ。