「自覚してるから許されると思うなよ?モンキークーパーが」

「お前車マニアなの?せめてモンキーパークだろ」

「もう公園級なの!?」

「何が!?」


そこでももちゃんが噴き出した。このごろ少し不機嫌そうだった彼女が笑ってくれたことに私は少し安心する。そして陽一がほんの少しだけ役に立ったな、と思う。しばらく話したのち、陽一を全力で追い払った後に、私はももちゃんを連れて職員室前へ向かった。

はああの美しい顔が拝めるだろうか。そう思っていたのが伝わったのか、お目当ての先生がちょうど職員室から出て来る。


「香住先生!」


ん?と言って私を見る先生は無自覚にも殺人級の笑顔を向けてくる。罪……これは罪です先生!


「年下は好みですか」

「唐突な質問だな」


先生は陽一を彷彿とさせるキレでつっこみを入れた。横でももちゃんが呆れたように笑っている。女は直球で勝負しなければならない。好きなら好きだと言わなければならないと、いつかももちゃんは私に教授した。


「どちらかというと年上が好みかな」


そして沈没へ向かう。穴の開いた船のごとく沈んでゆく、束の間、私にだけずっしりと重力がかかったような気になる。いや、めげません!


「今まではそうだったでしょう。では、ここを人生のターニングポイントにする気はありませんか」

「何を言ってるのかな?」


私の世界では、穴の開いた船こそ浮くのだ。思いこんだ者こそが勝者。前しか見えない私は香住先生を見上げる。ゆるく笑った顔は、少し表情が乏しそうだけれど三次元とは思えない美しさだった。後光が差している。


「とりあえず個人的な話がしたいので連絡先を教えてください」

「教師の連絡先は、個人的な話をしないという条件付きで教えることになってるけどね?」

「個人的な話以外にどんな話をするのですか……!?」

「勉強は頭にないのか」


すかさずももちゃんに平手付きでつっこまれた。今日は殴られてばかりでさんざんだけれど、こんなにもかっこいい香住先生様の笑顔を見れただけですべてかすり傷である。いいコンビだね、と言って香住先生は笑っている。ごちそうさまです。


「じゃあベンキョウの話しかしないので電話番号教えてください!」

「勉強と縁がなさ過ぎてカタコトになってる」