昼休みに、弁当を忘れたももちゃんと購買へ行くと、パンとサンドウィッチのみ販売している購買にも人だかりができていた。不思議な魅力がある、と思う。


買う気なんか全然なかったけれど、みんなが我先にと撮りたがるパンが、とてもおいしそうに見えてくるのだ。


「明太子フランスが無かったら早退するから」


ももちゃんの目は本気だった。応援するよ!と言ってももちゃんの背中を追うと、ももちゃんが手を伸ばした上から、黒い手が伸びてきた。


黒いっていうか、黒い跡がついた、手?


その手がももちゃんの手を払ったので私は目を疑った。そのままあまりにも乱暴にパンを掴んだので、驚いて振り返ると、脱色した髪にいくつもピアスをつけていてがっしりしたがたいの男の人が睨み返してきた。

ももちゃんの、明太子フランスが!



「手、洗ってから来た方がいいんじゃないですか」


「は?誰おまえ」


「いくら袋に入ってるって言っても、あんまりよくないでしょ。しかもそんな乱暴に」


そこまで言うと男の人は大げさに舌打ちをした。それを聞いてああぁーー言うんじゃなかったああぁと後悔に襲われる。なんちゃってって言って舌を出したら許してもらえるだろうか、そもそも許されるようなビジュアルでそんなことできるだろうか、と思って逃げようとすると腕を掴まれた。


黒い手からは嫌なにおいがする。何だろう、ガソリンスタンドじゃなくて。工具っぽい?


「お前の名前を聞いてんだよ!」


唐突で乱暴な声に、騒がしかったあたりが静まり返った。やめておけばよかったぁーーーと泣きだしたい気持ちになるけれど、ももちゃんがちょっと、とうしろで青ざめているあたり私がびびるわけにはいかない。


「……あ、」


飛鳥だけど。そう言ってやるつもりが怖くて大きい男の人を前にして、声が震えてしまった。情けないにもほどがある。今から謝ろうかな、そうしよう!!!!

地面を突き破る勢いで頭を下げようとした瞬間、怖い男の人に後光が差した。見逃さなかった私は動きを止める。くっくっという静かな笑い声とともに霜田先輩が現れた。


「ノリくん、そのへんにしときなって」


そしてノリくんと呼ばれた先輩を制したあと、私に向かって笑いかけてくる。


「最近よく会うね、飛鳥ちゃん」


「……霜田の知り合いかよ」