また何か言いたげにももちゃんが私を見ていた。なにー?と言うと目を細めるだけで何も言わない。今日は珍しく湿っぽくなくて過ごしやすいから、眠たくなったのだろうか。水筒の蓋がゆるんでいたので閉めようとまわす。水分を含んだゴムがこすれ合ってギュッと音がするのは、関係ないだろうけど少し夏を感じる。


「飛鳥ー、悪いんだけどバイトが早まってるから体育祭終わるまであと数日間、ちょっと早く帰りたい。先輩見たいのは分かるけど、夕方には。駄目?」


「うーん……迷いどころだな……でもそうだね、ももちゃんと帰るから、分かった」


「ありがとうー」


まあ先輩はこの時間に見ればいいか。そして体育祭が終わってからも学校内で会えるはずだ、そう思って私はももちゃんと一緒に荷物をまとめる。


はあでも帰り道とかに偶然会えないかしら、あの最高にかっこいい先輩。
そう思っているのが伝わったのか、なんと下駄箱でばったり霜田先輩に遭遇した。私はその瞬間に運命を確信する。


先輩は下駄箱のすぐ近くで水を飲んでいて、顔をあげたところで私と目が合った。


「……せんぱ」

「あ、あすかちゃん、でしょ」

「…………っ」


名前を呼ばれただけなのに眩暈がする。息を止めて顔を見上げると、屈託なく笑いかけてくる霜田先輩の顔が見える。ああ、沸点超えてしまいます!



「もう帰るの?俺も帰りたいなー」

「先輩の帰り道を邪魔する者は一人残らず排ンゴゴッッ」

「ドミンゴか!先輩たちは何時ごろまでやってるんですか?」



自分で私の口を塞いでおいてつっこまずにはいられないももちゃんのツッコミ体質にはもはや感服である。


「部活が始まったらグランド使えないからそれまでだよ。4時には終わってるかな」



4時か、それならそんなに遅くないなぁ、と先輩の声を聞いてなんとなしに思う。ここのところ、昼頃にしか登校してこないことがしばしばある陽一は、いつも眠たそうで、すこしいつもよりやる気がなさそうだ。

体調が悪いのかもしれないけど、運動といっても夕方までだから大丈夫か。そこまで考えていると、なぜか霜田先輩が私の目線にまでかがんでいて、結構近くで私の顔を覗き込んでいることに気がつく。



「……っ!?どうしたんですし!?」