鞄おいてくる、と言って教室に入った陽一に、クラスが少し温度を上げた、ような気がする。いろんな人が喜んだように陽一に話しかけている。群れない陽一がみんなに好かれているのはなぜだろう。そのまま携帯の着信音になりそうなくらいチャラチャラの陽一が、最近は女子に恨まれていないのはなんでなんだろう。

窓側の席で、ももちゃんが何やら陽一に話している。陽一が溜息をついて私の方を見てくるあたり、想像はつくが。思った通り陽一が私の方へ寄ってくるなり言う。


「霜田先輩はやめとけ」


「なんで陽一に指図されなきゃならん」

「指図じゃねえよ忠告。あの人はヤバいからやめとけ」

「どうやばいんだよ」


目を鋭くして陽一に尋ねるも、陽一はあー、やらんー、やら言葉を濁す、あーんじゃねぇよ喘ぐなと言ってやりたい。具体的に言えないくせに人のこと悪く言えるなんて見下げた根性だな。



「頭イってるとまでは言わないけど、ちょっとおかしいから」

「それを包み込んで愛するのが惚れた者の責任よ」

「あぁもう飛鳥がこの世で一番頭イってるわ相変わらず」



黙れ、と笑顔を向けて差し上げると同時にチャイムが鳴ったので陽一が頭をかきながら自分の席へ戻っていった。困ったな、というような顔だった。


体育祭と文化祭が行われる期間は授業が半日になるので、午後から夕方になるまで教室の窓からは、グラウンドで体育祭の準備をする人たちの姿を見ることができる。



「いた!!霜田先輩!!」



ももちゃんが私の声に反応してふーん、と言いながら先輩を見た。あれだよ、と教えてからもももちゃんの反応は薄く、あの先輩の麗しさが伝わらなかったのか不安になってくる。確かにさっき教室へ先輩が来た時もももちゃんの反応はいまいちだった。


「かっこいいよね??うん、かっこいい」

「自己完結したな」

「かっこよくないの!?」

「ちょっ食い気味に同意求めてくんのやめてよ」


ももちゃんが私の顔を押し返してくる。なんでそんな微妙な顔するの、と尋ねるとももちゃんは複雑そうに少し笑った。


「いや、別に飛鳥の自由だからいいんだけどね。ちゃんと芹沢もリレー出てるよね」

「あ、そういえばそうだね。心入れ替えたのかな、あいつ」