特別目立つこともしないし運動ができるわけでもないけれど、あの非日常的な雰囲気は好きだった。おおよその人間は、ああいうものに無条件に惹かれるようにできているのでないかと思う。


「そういえば芹沢は選抜リレーも出るんでしょ。今日の昼休み練習だって言ってたのに、まだ学校来てないね」

「ちゃらちゃらして学校来ないって、いよいよ末期だね、あいつ」


それでも陽一はずば抜けて勉強ができる。だから余裕ぶっこいてるんだろうけど、きっとそんなこと知らない生徒が多いと思う。今年から、この学校は定期試験の順位表を貼り出すことをやめた。きっとどこかから苦情が入ったんだろう、そんなことする必要がないと。

だから知らない人が多いだろうな、と思うと、勉強をしていることを顔に出さない陽一は損してるんじゃないかと思うことがある。

まあしかし、それで損した分を差し引いても余るほどの罪をあいつは日々重ねているわけだが。


「改めて考えると芹沢ってすごいよねぇ。あの容姿にしてこのハイスペックよ」


ももちゃんの言葉に素直に同意はしかねたが、確かに、と思える部分はある。陽一の顔面自体に粗はまるでなく、もし私と陽一が他人だったら、好きになっていたかもしれない。いや、無いか。


「そうだね、せめて陽一が人間だったらね」

「あんたはブレないね」


ふと廊下に目をやると、見慣れない男の人が困ったように私のクラスの中を覗き込んでいることに気がつく。その人は私に気が付くとあっと言って表情を明るくした。告白だろうか。ももちゃんと顔を見合わせるが、どうやらどちらの知り合いでもないらしい。


「どうしたんですか?」

「きみ、あれだよね?陽一の」

「陽一とはまるで関わりのない人生でしたが、どうかしましたか?」

「やっぱり聞いてた通りだ」


その人は少し笑ったあとに私の方を見た。それに少し違和感を感じてから、ももちゃんといてもしっかりと私を優先的に認識する人があまりいないからだということに気が付く。


「俺、陽一のリレーのチームメイトの3年なんだけど。あいつ最近練習来ないからさ、どうしてるのかと思って」

「ああ、なんだか分からないんですけど最近遅刻が多いんです」