きみを守る歌【完結】

一か月ぶりに登校した陽一はクラスメイトから歓迎され、担任からは泣きそうな顔で抱き着かれていた。なんで男に抱き着かれるんだよ!と取り乱す陽一の様子があまりに普通でなかったので、何かトラウマがあるのかもしれない。

その後陽一はしきりに首筋をさすっていた。


「現国あと1時間しか休めないってさ。ウケるよね」

「ウケる場所が違うでしょ。本当に留年するつもりだったの?」

「別に高校くらい辞めて、高卒認定取って大学行ったしね」



なんて担任の泣きそうなことを言うんだ、と心の中で担任の先生に合掌した。陽一は思い出したように自分の席についてから、廊下側ってしっくりこないな、とぼやいている。



「まあでも飛鳥のために来るよ。俺の高校生活なんて、結局それ」

「何言ってんの。勉強しろ」

「飛鳥ちゃんはもっと保健の勉強してね」



そう陽一が私の耳の後ろを撫でたので、恥ずかしくなって突き飛ばした。陽一の部屋で起きたことを思い出して顔に熱が集まってくる。

そんな私の様子を見て、陽一はもっと楽しくなっているようだった。もう絶対、しばらくは陽一の部屋へは行かない。


「ほらー、席つけー」


始業のチャイムと共に先生が教室にそう言いながら入ってきた。みんながわらわらと自分の席へ移動する間、陽一としばらく目が合っていた。


陽一が好きだよ、と口元だけで言ったことに気づいて、また痒い気持ちになる。私は両手で熱い頬を覆いながら、わたしも、と返事をした。










「わたしのおさななじみ」


私の幼馴染は聡明で要領がよく、気さくで正直にものを言い、明るくて人気者。けれど本当は寂しがりやで愛されたがりの臆病者。







これは思い込みが激しい私と、可哀想な彼の、長い長い初恋の話。