きみを守る歌【完結】

毎回コーヒーに砂糖を入れる人間は、この驚異的なスピードに慣れているのか?



「傷心のノリくんがコーヒーを一生混ぜ続けてるよ。かわいそう」

「そりゃ28歳の失恋は私たちとはわけが違いますよ。だってアラサーですよアラサー」



聞こえてますよ、という意味を込めて顔を上げると予想外なメンバーが俺を見下ろしていることに気が付く。百瀬さんと、えっと、名前を知らないけどこのあいだ芹沢と一緒に居たモデルのような人だ。



「こんなファミレスで何してるんですかノリくん。職務怠慢ですよ」

「あなたが私から仕事を奪っているんですよ。営業妨害ですから勘弁してください」



俺がそう言うと百瀬さんははは、と楽しそうに目を細めて笑った。涼しげな目元と長い黒髪がよく似合っていて、とても賢そうな女子高生、というのが最初の印象だ。パーツがはっきりしていて目を引く顔立ちの有栖川飛鳥とは対照的な容姿である。



「いや、飛鳥はちゃんとこっちと決着つけたのかなと思って」

「ああ、そこは大丈夫ですよ。めちゃくちゃきっちりと決着つけられましたから」


百瀬さんがアハハと笑う傍らで、セイラと呼ばれた美人が微妙な顔をしていた。馬鹿野郎、女子高生ごときが同情してんじゃねえよ。


『ごめん、ごめんノリくん。私はやっぱり、陽一のことが―――』

『ああ、そうですか。分かりました』


彼女が申し訳なさそうに俺を見上げたので、もやっとした感情が胸に広がったのを覚えている。10代の恋愛なんて、他人に迷惑をかけまくって、他人の気持ちなんか顧みずに、ただ前だけ見てればいいんだ。

だから申し訳ないだなんて、一筋も思わなくていい。ただ前を向いて、自分の気持ちに従えばいい。


そう思ってから、自分の達観に呆れる。この先、彼女できるんだろうか。



百瀬さんがメニューを一通り見てから店員を呼んだ。



「カレードリアください。Wチーズで」

「あーそれもう一つください。それといちごパフェ」

「あ、そのセット私にもください。それからガトーショコラとミルクレープとチキンナゲット」


セイラと呼ばれた美人は、今日はやけ食いすることにしたらしい。代謝の良い女子高生のうちにそういうことをするのは悪くない。好きなだけ食べて、明日からまた頑張るそうだ。