きみを守る歌【完結】

「そんなに芹沢のこと好きだったのに飛鳥の背中押すなんて」



この女も極端だけど良い奴だな、と思った。なんだか私の周りはそんな人間ばっかりで、その不器用さに少し可哀想になってくる。セイラはそのまましばらく何も言わずにぼとぼと泣いていた。


「初めから、私が入る隙間なんて一ミリもなかったんです」

「あ――まあ……お察しします」



私はいつも芹沢と飛鳥を見てきたから分かる。あの2人は2人なりに考えて苦しんでいるようだけれど、第三者から見れば茶番劇でしかない程度には相思相愛なのだ。



「なのにあの馬鹿女、それも知らないで。……結構良い奴だったし」



そうセイラが鼻を啜ったのにはちょっと笑ってしまった。


「だけど芹沢が夜バイトして大人の女と出かけまくってたのは事実なんでしょ。血迷ったな、あいつ」


そう言うとセイラがいいえ、としっかりと首を振った。


「遊んでたのは、そうかもしれないですけど。陽一先輩がどうしてバイトを始めたのか知ってますか」


セイラが潤んで赤くなった瞳で私を見上げる。気が強そうだけれどとっても美人だ。美人の泣き顔を見るたびに、やっぱり人は等しく苦労しているんだなあということを実感する。

美人の恋が必ずしも実るわけではないのだ。



「えっ、そういえば、なんでだろう。免許でも取るのかな」

「もうすぐ飛鳥先輩の、誕生日なんですってね」

「え?うん……えええぇ」


飛鳥の誕生日は確かに今月だ。それにしても4月からバイトを始める必要はないだろう。一体何万つぎ込む気だよあいつ。


「飛鳥先輩との時間を過ごしつつ、稼ごうとしたってことですかね」

「えー……何ていうか……」

「茶番ですよね」

「……ね」









結論からいくと、これは結果オーライなのだ。

これで自分は、法に触れずに済んだのだから。


あの馬鹿女が自分に等しく馬鹿じゃなかったことは、せめてもの救いだ。そう思いながら俺はコーヒーにいつもは入れない角砂糖を入れて溶かした。

その溶けるスピードに驚いて、スプーンでカップを混ぜる手を思わず早める。まさかそんな簡単に溶けるなんて、嘘だろ。中学生の時に理科の実験で砂糖と塩をそれぞれ水に溶いたことを思い出す。

確かに砂糖は早かったけど、こんな一瞬だったのだろうか?