きみを守る歌【完結】

その時、突然抱きしめられた陽一が驚いたようにバランスを崩した。あ、と思ってるうちに2人で陽一のベッドになだれ込む。


「えっ」


ぱっと身体を起こすと、私が陽一に跨るようにして倒れ込んでいたことに気づく。その絵面に急に恥ずかしくなってきて、ベッドからどこうとすると腕を引かれた。


「わあっ」


また陽一の上に倒れ込むような姿勢になる。心臓が破裂する、と思いながら身体を起こそうとしても陽一の腕がそれを許さない。暴れているうちに上下が逆転していた。


「ちょっと陽一離れて!」

「男の人の家に一人で行っちゃいけませんって保健体育で習わなかったの?」

「保健では習わないだろ!」


近づいてくる顔を押し退けようにも、両手がしっかりと捕えられていて敵わない。

キスされるかも、と思うような距離で陽一はしばらく私の目を見つめていた。

その間に私もぐるぐると考えて、まあでもいっか、という結論に至る。


陽一は私のほっぺたにキスをして、耳元に口を寄せた。




「もう絶対逃がさない」




顔が一気に赤くなっていくのを自覚しながら私はあっそ、と返事をした。


まあいっか、と思えるのだ。結局は陽一のことが好きなのだから。


絶望のような恋心を抱いて。2人で絶望に嵌って、途方もないと思いながら、焦ったり幸せになったりできたらいい。














ああ、2人の茶番がようやく終わるらしい。

校門を走って出ていく飛鳥の背中を見ながら、私は安堵のため息をついた。

我らが愛しき馬鹿女である飛鳥は、ようやく長い長い初恋に気づいて行動を起こす気になったらしい。

飛鳥が見えなくなるまでセイラと私はわあわあと言い合ったけれど、校門から姿が遠くなってしばらくして、スイッチが切れたように私たちは黙り込んだ。

さっきまでの壮也へのお熱など初めから存在しなかったかのようにセイラは無表情になって校門の方を見つめている。


まあ、そんなことだろうと思ったけどね。


「あは。俺、使われた?」


私とノリくんの前以外では絶対に一人称を俺で崩さない壮也は少しからかうように笑った。その笑顔は面食いには破壊力があるだろうな、と思ってセイラを見ると、壮也などまるで目に入らないようにセイラは大粒の涙を流していた。