きみを守る歌【完結】

それは、私が思っていた『好き』とはどこか違う気がしていた。人を好きになることが、こんなにも重くて苦しくて、途方のない感情だなんて思っていなかったからだ。


陽一は震える両手を口元まで降ろして私を見た。まだ手が震えている。それを見て、陽一を抱きしめたい衝動に駆られた。



「でも無理だった。陽一が私を守ってくれるたびに私は、ずっと。陽一から突き放されるまで、突き放されても、私の中で陽一は」



ああうまく言えない。うまく伝える方法が分からない。でももう戻れないのだから、伝えるしかない。





「傷つけてごめん。多分ずっとこれからも一生、陽一のことが好きなんだよ」





顔を上げようと思った瞬間に、きつく抱きしめられていた。


陽一の匂いが広がって、また私は泣きそうになる。





「面白くない嘘つくなよ」

「嘘じゃない」

「なんで俺が信用できると思うの」

「だって本当だから」




勝手だな、と陽一は確かめるように腕に力を込めた。そういえば陽一に抱きしめられるのは初めてだ、と思いながら苦しいような泣きたいようなドキドキが募ってくる。




「本当だよ。疑うなら束縛でも何でもして確認し続ければいい」

「そんなことしたら俺、止まらないよ。逃げたくなっても遅いよ」

「それを包み込んで愛するのが、惚れた者の責任だから」

「聞いたようなセリフだなー」



言ったっけ、ととぼけると陽一が呆れたように笑った。近くで顔を見たい、と思ったけれど力いっぱい抱きしめられている今も、悪くない。




「寂しくて苦しい陽一のこと、私が守ってあげる」




陽一が私の横で、どんな顔をしているのか分からない。でもこれだけは、心の一番下から本気で言ったこの言葉だけは、陽一の細胞に吸い込まれるようにして全身に伝わればいい。

陽一は鼻で笑ってからあー、と唸るようにもう一度笑う。




「本当に、俺史上最悪の悪い女」


「悪いって、二回言った。馬鹿だ」


「馬鹿はお前だろ、びーびー泣いて、最近泣きすぎだろ」


「全部陽一のせいだけどね」



私も陽一の背中に腕をまわして、力いっぱい抱きしめ返す。男の人を抱きしめるなんて人生で初めてかもしれない。苦しいようなドキドキが、伝わってしまうかもしれない。