それはとても自然なことである気がした。母親が出て行った家の中で、何も知らない顔で飛鳥が俺に向かって笑いかけた時、俺は多分幸せだったからだ。そしてこの願いがきっと、俺にとってのすべてだ。
そりゃ、人の気持ちは千差万別だから。
そう願って見守りたいという思いさえ、過ちだったという場合もある。
花火が上がりそうな夜空の下で、飛鳥を呼び止める俺と、それを全力で振り払おうとする彼女がいる。
浮足立った雰囲気の中でどうしてこんなに取り乱しているんだろう、と心配になって彼女の顔を覗き込むと、俺を睨んで泣いていた。
「私から離れればいいじゃん!誰かと付き合って、私の前からいなくなればいい!陽一が同情して私のこと可哀想って私に近づくから、靴が無くなって教科書八つ裂きにされて、嫌われることしてないのに嫌われてっ」
飛鳥の大きい両目にあっという間に水が溜まって、抱えきれなくなって、下に落ちる。
泣いているところを見るのはいつぶりだろう、と思うと俺は絶望に似た気持ちが襲ってくるのを感じた。
いつも飛鳥を守りたいだとか、危険な目に遭ってないか心配したりだとか、学校にいるあいだは飛鳥のこと見ていられるから大丈夫だとか、
自分が飛鳥に対して持っていた勝手な庇護欲や油断、怠慢、自意識のすべてが跳ね返ってくる。俺は全く分かっていなかったのだと、しっかりと教えられる。
「もう陽一から離れたい」
ああ、もう、泣かないで。
飛鳥は俺が近づきすぎると怒る。学校でも外でもそうだ。だから俺は恋人のような距離感にならなくても、どこかで見守っていけたらと思っていた。だけどこの距離でさえ、飛鳥は俺を許せない。
俺の前で飛鳥が笑うことと、飛鳥が笑って幸せになることは、まるで別の話なのだろう、延長線を引くことはできないのだろうと、ようやく実感する。だとしたら、後者こそが俺の願いであり、飛鳥の願いだ。
暴れる飛鳥を押さえつけて泣き顔にキスをしながら、腹の底が粟立つように絶望を伝えてくるのに、気づかない振りをした。
泣かないで飛鳥、幸せになって。いつか俺の家を、照らしてくれたみたいに。
―
ああ好きだけどもう諦めるから。好きになってごめん。
「何て言った……?」
そりゃ、人の気持ちは千差万別だから。
そう願って見守りたいという思いさえ、過ちだったという場合もある。
花火が上がりそうな夜空の下で、飛鳥を呼び止める俺と、それを全力で振り払おうとする彼女がいる。
浮足立った雰囲気の中でどうしてこんなに取り乱しているんだろう、と心配になって彼女の顔を覗き込むと、俺を睨んで泣いていた。
「私から離れればいいじゃん!誰かと付き合って、私の前からいなくなればいい!陽一が同情して私のこと可哀想って私に近づくから、靴が無くなって教科書八つ裂きにされて、嫌われることしてないのに嫌われてっ」
飛鳥の大きい両目にあっという間に水が溜まって、抱えきれなくなって、下に落ちる。
泣いているところを見るのはいつぶりだろう、と思うと俺は絶望に似た気持ちが襲ってくるのを感じた。
いつも飛鳥を守りたいだとか、危険な目に遭ってないか心配したりだとか、学校にいるあいだは飛鳥のこと見ていられるから大丈夫だとか、
自分が飛鳥に対して持っていた勝手な庇護欲や油断、怠慢、自意識のすべてが跳ね返ってくる。俺は全く分かっていなかったのだと、しっかりと教えられる。
「もう陽一から離れたい」
ああ、もう、泣かないで。
飛鳥は俺が近づきすぎると怒る。学校でも外でもそうだ。だから俺は恋人のような距離感にならなくても、どこかで見守っていけたらと思っていた。だけどこの距離でさえ、飛鳥は俺を許せない。
俺の前で飛鳥が笑うことと、飛鳥が笑って幸せになることは、まるで別の話なのだろう、延長線を引くことはできないのだろうと、ようやく実感する。だとしたら、後者こそが俺の願いであり、飛鳥の願いだ。
暴れる飛鳥を押さえつけて泣き顔にキスをしながら、腹の底が粟立つように絶望を伝えてくるのに、気づかない振りをした。
泣かないで飛鳥、幸せになって。いつか俺の家を、照らしてくれたみたいに。
―
ああ好きだけどもう諦めるから。好きになってごめん。
「何て言った……?」

