きみを守る歌【完結】

飛鳥に愛されるのは。



視界の端の方から黒く染まって、狭くなっていくのを感じる。都合がいい、と思って目を閉じた。何かが映れば、真っ先に母親が出てきて、俺をあざ笑うと思ったからだ。



愛してくれない人を追って、一人になる。字面を想像するだけで、まるで救いようがないと感じる。どこにも愛がない。それでもいいと思えるほど俺は、献身的ではない。献身的な愛が美しいという価値観をもらわなかったからだ。


愛が足りない、と思う。決定的に。俺には。



『そんな人間が、他人を愛せるわけないでしょ?』



赤のサングリアを飲みながらそう笑う母が結局、俺の目の奥にいる。


別にこれは事件だったわけではない。飛鳥が俺を信用しなかったり俺を好きじゃなかったりすることは、飛鳥のせいでもないし一概に俺が異端だからというわけでもないのだろう。


ただこの気持ちが報われることはないのだ。そして俺は、信用しないからと言って俺を見捨てない飛鳥が、今のような「幼馴染」の関係が続くことを望んでいることを知っている。


それに従うことは、自分の気持ちを細かく砕いていく作業のように感じる。


だけど仕方がない。俺には嫌がる飛鳥を追いかけて距離を詰める気力がない。愛をくれない人に愛を求めることは建設的じゃない。何かもっと、簡単な方法はないだろうか。





それから俺はおじさんにシフトの連絡を入れて、誘われればバイト前や後に客と出かけるようになった。







誰かが周りにいないと、一人になってしまうと、俺は同じことを考えて、生産性のないことをぐるぐる思うのだろうか、と考えるだけで気分が悪い。そんなのは向いてない、と思って俺はほとんど毎日バイトやデートの予定を入れた。

教室で飛鳥を横目に見ると、毎日いつも通りに過ごしていることがうかがえる。俺がバイトを始めても朝遅くやってきても、いつも通りだ。

窓側の席について外を眺めながら俺は、自分のしたいことと実際にしようとしていること、自分が望む状態と実際に陥りそうな状況をひとつひとつ並べて、ちっとも整然としないことに気づいて目を閉じる。どれも繋がっていないし一貫していない。



だけど飛鳥が幸せになってくれればいい。