きみを守る歌【完結】

おじさんと常連らしいノブコがとても親しそうなので、年齢が同じくらいなのかもしれないな、と震えながら思った。だとしたらノブコも、40歳前後くらいだろうか。


「その、なんだ、陽一……マイノリティには優しくいこうな」

「俺、何も言ってないっすよ」


おじさんが申し訳なさそうな顔で俺に謝ったあとにノブコを叩いた。俺は首をさすりながら、バーで働くとは簡単ではなさそうだ、と思った。






千穂子さんの言葉を呪いのように思い返しながら、俺は飛鳥がかかっていた一過性の病の、最終日に立ち会った。


本屋で香住先生をストーキングしていた飛鳥は、百瀬もまた先生を好きだったことを知ったのだ。一過性とはいえいつも終わる瞬間は少しだけ苦しそうにする飛鳥を見ていると、少しの庇護欲を覚える。


そろそろ飛鳥が俺の方を向いてくれないかな、なんて思うのは都合がいいのだろうか。

エレベーターを降りて飛鳥にどう声をかけようか迷っていると、飛鳥が俺をにらみつけるように見上げてきた。



「何見てんだよ」

「飛鳥はいつ俺のこと信用してくれんの」

「私に原因があるみたいに言わないでよ。信用に値しないのが悪いんでしょ」



きっとへらへらした顔で相槌を打っているだろう、と自分をどこか客観的に捉えながら俺は腹の底で、そうか、と納得した振りをした。

飛鳥は俺のことを、ちっとも信用していないらしい。



「なんでだよ、悪いことしてないだろ」

「そんなこと言うならせめてもっとばれないようにやれば?その首元、目障りだよ」



何の話だ、と思って確認すると確かにグロテスクなマークが首筋についていた。気づかなかったことにも驚くけれど、これはノブコがつけたやつだ、と俺は辟易する。けれどそう説得するには、バイトをしている下りまで話さないといけないと思うと気乗りがしない。


こんな誤解でしかないマークが、飛鳥の中では圧倒的に信用できない俺が打ち立てられるのか、と思うとますます気力がなくなっていく。


上手にやれない、自分のことを同等に嫌だと思いながら、俺は、この半年ちょっと、彼女を作らず彼女のそばに居続けたことでも飛鳥の信用を勝ち取れなかった現実を初めて実感して、失望する。飛鳥と自分の両方に。

認めてしまうと、思いのほかすとんと降りてくる。



やっぱり不可能だ、と思う。