きみを守る歌【完結】

それから俺は飛鳥がいつ来ても不思議がらないように、家の中を片付けるようになった。やってみると案外簡単で、掃除機をかけてものを整頓するだけのことを、なぜ父ができないのかが分からなかった。


しばらくして言わずともして、誰かが飛鳥に両親の離婚を伝えたらしい。けれど飛鳥は変わらず俺と遊んで、楽しそうに頭の弱そうなことを言って笑った。



だから、大した記憶ではない。



「芹沢くん、17歳ねー。いいんだけど、シフト希望19時以降ってどうにかなんないの?高校生だから22時までしか働けないでしょ」


ファミレスで、困ったように店長が履歴書を眺めた。俺はなんて言おうかな、と考えながら一方で、きっと雇ってもらえそうにないから別のところ探さないと、と考える。

そうか、18歳未満は22時までしか働けないのか。そう改めて考えると、自分がすごく餓鬼に思えてきて少し苦しいものがある。


「あー、放課後ちょっと、用事があるので」


そうかー、と言いながら店長が断りそうな雰囲気をさらに濃く感じる。また電話する、と言われて俺は事務所を出た。

コンビニや薬局はどうだろうか。時給が安そうだな、と思って歩いて行くと、ファミレスから出てくる男に声を掛けられた。


「おい、陽一か?」







振り返って数秒してから気づく。俺の名前を呼んだ男の人は、もう7年顔を見ていない母の兄だった。

喉の奥がぐっと詰まる思いがして思わず周りを見渡す。いつも通りの風景が流れていて、ファミレスの外装は相変わらずポップだったので、すぐに正気になった。


「おじさん」


俺の返事が不自然じゃなかったことを、もう一度自画自賛できるくらいに、おじさんは気持ちよく笑顔を作って俺に寄ってくる。


「おまえ、大きくなったよな!気づいた俺すげえ。何、学校さぼってこんなところで働いてんのか」


俺が事務所から出てきたからか、と納得しつつ面接だったのだと説明するとおじさんは食い気味にそう、と相槌を打った。


「バイト探してんの?だったら俺のところで働かないか」


気乗りしない、と思いながらさっきの面接で手ごたえがなかったことがちらつく。誘われてるんだし、多少のシフトの融通はきかせてくれるかもしれない。

夜から働きたいのだと説明すると、おじさんは快諾した。