きみを守る歌【完結】

つい俯くと、涙がぼたぼたとこぼれた。こんなにも嫌われているとは思わなかった。心のどこかで陽一は私のことを思い出してくれていると信じて、こんなところまでのこのことやってきてしまった。



「うっ、も、もう、絶対に陽一のこと煩わせたりしないから……っ」


「なんで泣くんだよっ」


「好きだけどもう諦めるからっ」



そう言ってからまた涙が溢れてくる。全部私が駄目だった。もっとはやく気づいて、もっと早くこの人と向き合うべきだった。こんなに嫌われたあとじゃ、もうどうしようもない。

ぐちゃぐちゃに歪んだ視界の中心で、陽一が立ち上がったのが見えた。



「……は?」



そう素っ頓狂な声を上げたのは、陽一のほうだ。






世界で一番守りたいはずの女の子が、
俺から離れたいと言って泣いている。




「陽一くんは聡明な子ね」



小さいころからよくそう言われていたし、父親はそれを期待して俺によく勉強をするように言った。今ではそれなりの大きさの企業で管理職に就いているらしい父親は、若い時から仕事に没頭していて、その傍らで俺と塔矢に構ってはいろんなことを教えてくれた。


そしてこの人は、学を積んでいくことが幸せの条件だと信じて疑わないのだと、小さいながらも俺は気づく。でも圧倒的にいい成績をとればいつも笑って褒めてくれたから、それは幼かった俺を喜ばせるには効果的だった。


そんなに勉強なんかしなくてもいいじゃない、と不満そうに言っていた母親は、俺が小学校5年生の時に家から出て行った。


それから父親は、俺に干渉することがなくなった。その一連を見ていた俺は、父が幸せの作り方を間違えた現場を見た気になって、そういうもんなのか、と散らかっていく家の中から目をそらした。

母を失くした家の中からは、それまでの綺麗さと、父からの子への関心もさっぱりなくなった。




「なんか最近、陽一の家、変だね。なんかあったの?」



物が散らかっているリビングを見て、飛鳥が不思議そうに俺に尋ねてくる。ああ、お母さんが出て行ったから片付ける人がいないんだよ。そう言ってもよかったけど、きっと飛鳥にはどういうことか分からないだろうな、と俺は感じる。



「ううん、何もなかった」