きみを守る歌【完結】

窓の外に、何を探していたんだろう、と思いつつ私はあー、と返事とした。情けない、かすれた小さな声が出た。心臓の動きが、私の声を削っているみたいだ。



「陽一、」

「帰って」

「聞いてよ」

「帰れ」



ああ、泣くな、私。どうして、全く私の話を、聞くつもりもないんじゃない。何をしに来たのか、少しくらい、気になってくれてもいいじゃない。少し涙ぐんでくる目元と喉に力を入れて、ぐっと涙を押し込める。私が返事をしないでいると、陽一がじっと私のほうを見てくる。



「泣きそうな顔、するじゃん」

「だって学校に来ないし、私の話も聞いてくれないし」


陽一は俯いてははっ、と笑った。ここのところ陽一が私に笑うことがあったとすれば、いつもこんな乾いた笑い方だ。そしてまた顔をあげると、冷たい目線を向けてくる。




「本当にいい加減で気まぐれで、勝手だね。俺に離れたいって言ったよな?飛鳥って、自分の言うこと、俺ならなんでも聞いてくれると思ってるだろ?結局全部、自分の思うようになると思ってるだろ?」


「何、言ってるの?」


「俺を避けたり、煙たがったり、嫌だと言ったりして、だけど繋ぎとめておこうとしてるだろ?一番近くで残酷な言葉を吐き続けて、だけどこうやって会いに来れば簡単に解決すると思ってるだろ。無駄だな、俺はもう飛鳥のこと、どうでもいい」



久しぶりに陽一が声を張った。私はその言葉を飲み込みながら、喉にまた力をこめる。ここで泣いてしまったら、きっとまた、こないだと同じで何も言えなくなる。だけど視界が揺れていく。



「帰れよ!」



どうしてこんなに傷つけるような言葉を選んで、私を天敵でも見るような目で見て、陽一は、拒絶するのだろう。

だけどそれは確かに事実で、私がずっと陽一にしてきたことそのものだった。



けれどこの、怯えているような雰囲気はどうしたんだろう。こわいものを見るような、逃げ出しそうな。そんな陽一のようすが、私を傷つける言葉自体よりも深く胸を抉ってくる。陽一が怯えている。私のせいで。



「わ……わかった。じゃあ、学校には来てよ。陽一が私のことが嫌いで来れないなら、もう絶対に話しかけないから。もうこれからは、陽一の空気になるから」