きみを守る歌【完結】

物が少ない家できちんと整頓もされていて、ただ陽一の部屋だけがとっ散らかっていて雰囲気がちぐはぐしていた。今はきっと陽一の部屋も綺麗なのだろう。

陽一には変に几帳面なところがあるからだ。


久しぶりに陽一の家の前に立って、最後に来たときと変わらずに新築みたいな雰囲気を出した、少し静かな家だと思った。


ドキドキしながらインターホンを押す。指先が心臓になったみたいに震えたけれど、待っても出てこないことは、どこか予想通りだ。

控えめにもう一度押してみる。この中に人は居るのだろうか。きっとお父さんはまだ仕事に出ている。

少し待つとドアが開いた。あ、と思ってドアが動くところを見ているときは、その動きを見る以外何も考えられなかった。



「――――あ、」

「えっ、」



私を出迎えたのは、陽一ではない。


「えっと、塔矢くん、久しぶり」


彼は少し緊張を解いた表情で私を見上げる。昔みたいに飛鳥ちゃん、とは呼んでくれないあたり、思春期を迎えているらしい。

確か今年中学3年生になるはずの塔矢くんは、陽一の弟だ。


「先生かと思いました。それなら追っ払ってくれって、陽くんが」


陽一を一回り華奢にした感じの塔矢くんは、物憂げな雰囲気も手伝って恐ろしく美形に見える。表情が乏しいところもその線の女子には大いにモテるだろうな、と思っていると彼が「あの?」とクールな目で私を見た。


「あ、でも私は先生じゃないし。てか陽一、いるんだね」

「いるけど……」

「どうしても陽一と話がしたくて来たの。呼んでくれるかな」


塔矢くんは少し困った顔をしてから、分かりましたと玄関先で踵を返した。私は一か月ぶりに陽一に会う、ということを意識して、また緊張し始める。

だけど言ってやらなくちゃ、留年なんて馬鹿じゃないのって。


しばらくすると塔矢くんが鞄を持ってまた現れた。



「陽くんが、飛鳥……ちゃんにはもっと会いたくないから帰れって」



うっ、と声にならないうめき声を心があげる。ここのところ、拒絶されてばかりの私の心臓はきっとまた少しへこんだ。まさかあの中年担任よりも私の方が嫌だとは思いもしなかった。



「じゃあ、陽一に学校来てって伝えて。陽一、このままじゃ留年なんだって、塔矢くんも嫌でしょ?」


「別に、僕には関係ないし」