きみを守る歌【完結】

「ももちゃんのことだよ。百瀬園子」

「はっ!?田中ももとかかと思ってました」



私がいつもももちゃんももちゃんと呼んでいるせいだろうな。クラスの女の子にもももちゃんって呼ばれているしな。だけどそこを愛称でなく名前呼びしちゃうところが、2人の特別感を出している。

いいなあ、と思ってから、そういえば私が陽一のもとへ行くと言ったのに、セイラちゃんが突っかかってこないことに気づく。

もしかしてすごく傷ついているけど、さっきのことがあった手前、言い出せないのだろうか。

というかセイラちゃんは今、陽一とどんな関係なんだろう。もしかして、もう手の届かないところにいる、なんてこともあるんだろうか。

そう考えるのはやっぱり恐ろしいうえに心を砕く作業だった。


聞こうかな、聞くのはデリカシーがないかな、なんてことを思ってセイラちゃんの目を見ると、今度は目が合わない。セイラちゃんは驚いたように呆気にとられたように、目を見開いて霜田先輩のほうを凝視していた。



「……かっこいい……」



セイラちゃんの口調が180°変わった気がするのは、気のせいだろうか。そう思ってもう一度セイラちゃんを見るとやはり彼女は目を輝かせて、霜田先輩のほうだけを見ていた。




「……霜田先輩って、言うんですかぁ……?」




ええええええ、と思いながら私もつられて霜田先輩たちの方を見る。正面からセイラちゃんの視線を受け止めた霜田先輩はセイラちゃんに初めて気づいたように頷き、となりのももちゃんはハッとした顔で警戒している。



「ちょっとセイラちゃん壮也はやめてよ!それだけは駄目!」

「私セイラって言いますぅ、知ってますかぁ?」

「そうなの?知らない」


3人の温度が違いすぎてこっちが困ってくる。ていうかセイラちゃんもしかして、ただの面食いかよ!


「ちょっと近いってセイラ!離れろ!」

「私のほうが百瀬先輩より、足細いですよぉ」

「いやなところついてくんな!!」


この言い合いが終結するのはいつだろう、と考えながら私はももちゃんに手を振ってその場をあとにした。



最後に陽一の家へ行ったのは、小学生の時だろうか。にぎやかな両親(主に母親だけど)がいつもわあわあ言っていた私の家とは違って、静かで大人な雰囲気の家だと思ったことを覚えている。