きみを守る歌【完結】

「それは、飛鳥が今から確かめに行くから」



セイラちゃんが返事の代わりに眉根を寄せてまた涙を流す。私にはセイラちゃんが何を言っていて、ももちゃんが何を察したのかが分からない。

私が何も言えずにいるとももちゃんが振り返って飛鳥、と呼んだ。



「まだ手遅れにはならないって言ったの、撤回する。今がタイミングだよ」

「今?」

「今日だよ。行動しようと思った日がタイミング。手遅れになる前に芹沢のところへ行って」



ももちゃんのその言い方に、香住先生の言葉を思い出す。行動範囲が狭いから離れていかないというのは思い込みだと彼は言った。臆病になっていると、きっと後悔することになると。


留年になると、退学してしまう生徒がほとんどらしい。担任の先生が私にそう教えてくれて、ほとんど泣きそうな顔で陽一を連れ戻してほしいと言われた。


陽一は留年、と言われてもなお、学校へ来ない。




「何もしなくても、飛鳥が忘れられるなら別にいいんだよ。でもそうじゃないなら、行動しないことは、2択だった選択肢を1択にするの」





ももちゃんは何でも知ってるんだなあ、と思いながら私は頷く。こんなことになる前からだって、今まで逃げてきたことがいくつもある。

陽一はいつだって私を傷つけ得る要因を持っていた。内容を教えてくれないバイトをして、首筋にキスマークをつけて、知らないところで知らない女の人と歩いて。

私は全部それを嫌だと思う前に目をそらした。陽一のことが嫌なんだと言って。


思い出すとまた自覚が降ってくる。私は。私は。私は。




「――行ってくる。ももちゃん明日、慰めてね」


「任せ、あ、霜田先輩」




結構いいシーンだったのにももちゃんが霜田先輩を優先的に認識したことに私はショックを受ける。まあ女の子だもんね、好きな人のほうが大事だよね。ていうかやっぱり私の前じゃそうたんとは呼ばないんだね。

泣きそうになりながら振り返ると久しぶりに見る霜田先輩がいて、そして霜田先輩はももちゃんだけを見て史上最強に優しそうな顔をした。夢に出そう。



「園子の教室まで行ったのに居なかったから探したよ」

「あっ、ごめんね連絡してなかったね」



2人が恋人っぽい雰囲気を醸し出し始めたところでセイラちゃんが私の横にやってくる。



「園子って誰ですか」