きみを守る歌【完結】

何やってんの!そしてこんな個人的な情報を先生が私にぺらぺらとしゃべっているとは、相当参っているんだな、と同情する。


「ありえないだろ、あんな有望株が留年や退学なんて……担任の監督不行き届きだって責められて頭狂いそうだよ」

「落ち着いてくださいよ」


先生のさらに歳をとったような疲れ顔に心の底から申し訳なく思うけれど、現実的に、私がどうにかできる問題ではない、というかたくなな心が私の中にあった。

ごめんなさい、私にはどうにもできない。だけど陽一が進級できないなんて、いくら何でもひどい。

とりあえずできることを探してみます、と言って私は生徒指導室を出た。そんなことあるのか、と何度も思いながら。

拒絶された私が陽一を引き留めに行ったところで、もっと学校から足が遠のくんじゃないか、と思う。それはあってはならないことだ、と思う前に、私がもう一度傷つきたくない。

そう自覚するとまた目をそらしたくなる。

ああ私はどこへ行っても自分が一番かわいいのか。




「行った方がいいよ」



ふと廊下で声をかけられて振り返ると、最高にホットでスパイシーな香住先生が私の目を見ていた。それに気づいてああ私に言ったんだ、と分かる。

香住先生ほどの完璧な人が私に声をかけてくれたというのに私はあぁ、と思っただけで、あまり舞い上がっていないからおかしいな、と思いながら私は返事をした。



「行った方がいい。失ってから有栖川がきっと後悔する」


「何の、」


「高校生だし行動範囲が狭いから離れていかないと思ってるかもしれないけど、本当にある日突然失ったりするんだよ」


「何の話……ですか」






香住先生はなぜか少し苦く笑ったけれど、私はその理由を察するにはまったく香住先生のバックグラウンドを知らないため、うまく呑み込めない。


「全部これが最後のタイミングだと思った方がいいよ。伝わらないかもしれないけど」

「最後?」

「ちなみに芹沢、数?はあと4時間で留年だから」




聞けば聞くほどクズに思えてくる!授業くらい出ろよ!衝撃を喉元に抑えて私は会釈をする。最後のタイミング、という実感が沸かないわりに語感の気持ち悪い文章を頭の中で繰り返す。・