きみを守る歌【完結】

どうしてそんなにも前向きなんだろう、と思った。何も伝えられなかったけど何を伝えたかったのかも分からないし、昨日陽一に拒否されたということは私にとって大事件でいっそ終末でさえあるのに。

どうしてお母さんやももちゃんは、まだこれからだと思っているんだろう。


半ば不満のようにそんなことを思ってから、昨日ノリくんにキスされてからの一連を思い出してみる。確かに私はあの時、あんなにも傷ついたのに、自分の心は逃げられないのだと強く実感した。


ももちゃんが言っていることはこれに近いのかもしれない。

どうせ逃げられないことなら、終わりだと思うべきではない、というような。


考えると胸の奥が絞られたように苦しくなってくる。雑巾って言うとイメージが悪いけど、濡れたタオルをずっと絞るような感じだ。まだ潤っている、まだ引き出せるって、そう言われているみたいだ。


傷つくかもしれないのに、その傷は痛くて苦しいだろうに、引き返すことが難しい。そんな自分の感情の底のなさが恐ろしい。


けれどももちゃんはさっき、おおよそ誰もが通る道だと言った。

それが私にはにわかに信じづらい。誰もがこんな気持ちになっているのだろうか。期待と落胆を繰り返して、傷ついてそれなのに目をそらせないだなんて、そんな苦しくて居た堪れない気持ちを、抱えたことがあるのだろうか。


誰かを好きだと思ったとき。



何も知らなかった私にとっては、それは大きすぎる衝撃だった。



絶望みたいだ。



漠然とそう思ったあと、私はまだ登校してきていない陽一の席を見つめて現実的な方に思考がシフトする。これから陽一を見たら私は、どんな気持ちになるのだろう。同じクラスの中で、徹底的に避けられるんだろうか。その時私は堪えられるんだろうか。


けれどその心配が現実になることはなかった。






陽一があれ以降、学校に来ないからだ。


1ヶ月経って担任に呼び出されたときに、私はようやく時間の進みを実感した。その1ヶ月は鬼のように長くて、進んでないよと言われればすぐに信じてしまいそうだ。

その間にも私は動くことができず、ただ毎日今日は来るだろうか、という期待と不安が混ざった気持ちで空いた席に視線を送っていただけだ。


どうしたんだろう、と思いながら、連絡の来ない携帯を何度も見つめただけだ。