全身が心臓になったようだ。腕を解こうと躍起になっていると陽一に身体を反転させられ、向き合う形になる。視線を上げると陽一はいつもと全然違う表情で私を見下ろしていて、濡れた唇が全然年相応じゃなかった。

そのまま両腕を封じられる。すでに力がうまく入らなくなっている私の身体はあっさりと陽一のいいなりになった。


「飛鳥めっちゃエロい顔してんだけど、たまんない」

「何がだよこのスケベザル!」

「もうちょっと素直になったらなお可愛いんだけどなあ」

「私の素直可愛いは陽一のために用意されたモードじゃないからな!残ね、っ……」


最後までまくし立てることは許されなかった。いらついたように目を細めた陽一がそのまま顔を寄せてきたからだ。濡れた唇が私のそれをむさぼっている。もうほとんど力が入らなくなった身体は抵抗もできずそれを受け入れる。熱すぎて、蒸発してしまいそう。


「ん……ふ、っあっ、……」


どのくらい経ったのか、分からない。

どうにかしなきゃと思うのに、考えるのがめんどくさくなってくる。陽一の粗のない肌が私に触れて、柔らかそうな唇が濡れている。時折角度を変えるたびに視界に入る目はつややかで、色っぽい。

何でこの人はこんな私に触れるのだろう。


その時エレベーターの中の電気がパッとついて、その衝撃で私は反射的に陽一を突き飛ばした。おっと、と姿勢と整える陽一が一瞬私を見下ろして、鼻で笑ってくる。なんだよ、と言うまでもなく、私が情けなく赤面しているせいだということは分かっている。


「あんまり生意気なこと言うと、次は止めてあげないよ」


「……っ」



そうやって。

そうやって、セリフの使いまわしをするのか。


ガタタ、と不器用そうな音を立てたのち、エレベータは正常に動いた。チン、という控えめな音とともにドアが開くと、ももちゃんが心配そうに私の顔をのぞいた。


「ちょっと飛鳥っ、平気だった!?別の階のエレベーター全部使用禁止になってるよ!」


息が切れていて、階段を駆け下りてきてくれたんだなあ、と思うと胸がじーんとなる。ももちゃんはやっぱり私にとってとても大事な人。


「ももちゃん、大丈夫だよ、全部」

「よかった……」

「大丈夫だから、先生のところに行ってきて」