今後のバイトについての相談をしに裕司さんの元へ向かう。この左腕では重たい荷物は持てそうにない。最悪、休むことになってしまうが、そうなったら生活がかなり困窮してしまうので、何でもいいからやれることをやらせてもらうように説得しよう。

 昨日の出来事もあって少し気まずいけれどこういうことはしっかりしないといけない。

「そのことなんだけど、臨時で新しい人雇ったからしっかり休んで」
「え? そんなすぐに?」

 こんな田舎に都合よく人材が見つかるなんて稀である。それよりも休むのはまずい。

「本人から強い申し入れがあってさ。もう来てるだろうから、やり方を教えてもらえる?」
「わかりました」

 本人からの申し入れとはさらに珍しい。こんな田舎の安い給与でアルバイトするくらいなら隣町まで言った方がまだましだ。

「それから、お母さん褒めてたよ」
「……そうですか」

 きっとそんなのは一時的だ。一週間もすればいつもの態度に戻る。

 母のことよりも臨時で雇われた人のことが気になる。あまり優秀だと僕の仕事を取られかねない。いきなり無収入になるのはきつい。怪我の治療費だってかかるというのに。

 倉庫へ向かうと、うちの高校のジャージを着た大男とカーキ色のコートを着た女性がこちらに背を向けて準備体操をしていた。

 どちらの背中にも見覚えはあったが、この組み合わせは奇妙でしばらく様子を伺ってしまった。

「何やってるんですか。キサさん。それに大河も」
「やあ、朱鳥先輩。いま準備中だから」
「おす! 朱鳥先輩。少し待ってくれ」

 二人の準備が整うまで、積荷のリストを見ながら考える。キサさんと大河に面識はないはずだ。例えあったとしても、大河はキサさんの正体を知らいないだろう。知っていたのなら僕に伝えているはず。

 二人は意気投合している様子で、一緒に身体の色々な個所を入念に伸ばしている。

 二人の様子が気になってリストが頭に入ってこない。

「よし準備は整った。とりあえず荷物たちを荷台から下せばいいんだろ」
「箱に何が入っているか記載されてるから、それぞれで纏めて」
「了解しました。先輩」
「その先輩ってやつやめて」
「仕事の先輩だから間違ってないだろ」

 大河は咆哮のような笑い声をあげて、やる気満々で腕まくりをするとさっさと作業に入る。一方のキサさんは体操を終えると僕の隣に腰を下ろした。

「働かないんですか?」
「私は雇われてないから。まさか、こんな可愛い女の子にあんな重たい物持たせる気なの?」

 自分で可愛いって恥ずかしくないのだろうか。それはさておき、確かにこの作業は女性にはしんどい。あの裕司さんが雇うわけがないか。

「大河と面識あったんですね」

 その言い方では嫉妬しているみたいだと気づいて恥ずかしくなる。

「ないよ。初対面。安心した?」
「別に心配してないですから」
「嫉妬したくせに。素直じゃないな。昨日の朱鳥はもっと可愛かったぞ」

 さらっと名前を呼ばれて耳がくすぐったくなる。平気な顔をしているのが何だか悔しい。

「それでキサさんは何しに来たんですか?」
「朱鳥に会いに来たんだよ」
「はいはい」
「少しは良い反応してよ」
「仕事中ですので部外者は出て行ってください」
「意地悪だね。まったく」

 僕達がくだらない会話をしている最中、大河は次々と重たい荷物を下していく。さすが普段から鍛えているだけあり、僕よりも格段に速く作業を進めていく。

「ところで彼、森のくまさんみたいだね」
「本人に言わない方が良いですよ。気にしてますから」

 心の優しい力持ち。どうしてそれがコンプレックスなのだろう。誰が聞いても短所ではないのに。

「朱鳥先輩終わりました」
「じゃあ次は僕が支持を出すから、言われた商品を集めてきて欲しい」
「了解」
「がんばれー」
「キサさんは本当に何をしに来たんですか?」
「応援だよ。美女の応援には無限の可能性が秘められているの。知らない?」
「はいはい」

 相手にしても時間の無駄な気がして、とりあえず適当に返事をした。

 もしかしたら僕の事を心配してきてくれたのではないかと頭の片隅に思ったが、そんなおこがましい考えはすぐに打ち消した。