目が覚めると僕はくたびれたソファーで一人だった。
朝日が窓から差し込んで僕を容赦なく照らし、寝返りを打つと左腕に痛みが走る。ずきんとした痛みで昨日の事が夢ではなかったと実感する。感覚が次第に目覚めてきて、焦げた臭いが鼻を突いた。
「目が覚めたね。もうすぐ朝食が出来るよ」
出来るお姉さんの振る舞いでキサさんは、レタスに目玉焼き、ウィンナー、サンドイッチを盛りつけたモーニングプレートをテーブに置く。一度、失敗しているようでキサさんの方は黒くなった目玉焼きがレタスで隠すように盛りつけられていた。
「やればできるんですね」
「これくらいは当たり前でしょ。私は料理が出来ないんじゃなくて、しないだけだから」
得意い気になって僕の隣に腰を下ろす。
ハンバーグの食材を買った時に一緒に朝食用の食材も買っておいて正解だった。またシリアルバーだけで済まされていたら、説教をしていただろう。
「それ食べたら家まで送るよ」
「ありがとうございます」
目玉焼きの白身を一口。特別な味付けをしているわけではない。それなのに美味しいと感じてしまうのは何故だろう。サンドイッチもハムとレタスを挟んだだけなのに、自分で作るよりも美味しい。
「感想は?」
「普通です」
「そこはお世辞でも美味しいって言えばいいのに」
美味しいなんて言えば調子に乗りそうだし、悔しいから言ってやらない。きっとこんな意地は簡単にばれてしまっているだろう。
「それを食べ終えたら送るよ」
「はい」
穏やかな時間。こんなのは初めてかもしれない。
「どうしたの? 急に手を止めて。何か苦手な物あった?」
「いえ、こんな風に朝を迎えたのはいつ以来だろうって」
「私もそうだね。朝がこんなに穏やかだったなんて忘れていたよ」
隣に誰かが居るという事が僕を落ち着かせることなんて一生ないと思っていた。
きっとそれはキサさんも同じではないか。
同じであってほしいと思ってしまう。