大河の家はこの町唯一の薬局だった。薬局と言っても薬の他に色々なものが置いてあり、商店と言った方が近い。この町にはコンビニが無いのでちょっとした買い物はここで済ませてしまう事が多かった。
店の裏手に周り玄関までいくと唯織は遠慮なしに戸を開ける。
「大河いる?」
唯織が声を掛けると熊のような男が顔を出した。
「いるよ。うおっ! 派手にやられたな」
僕を見た大河は唯織とは違って少しおどけて傷口を指さす。
「やられてない。転んだだけ」
「はいはい。そこで待ってろ。軟膏持ってくるから。母さん救急箱ってどこ? え? どこの戸棚?」
「もう。事前に連絡したんだから用意しといてよ」
大河のもたつきに耐えかねた唯織は玄関を上がって入って行く。一方の僕は当事者なのにも関わらず一歩引いてこの状況を眺めていた。
大河の両親も僕の父の事業に賛同して投資した人たちの一人だ。結果があんな事になり僕に対して複雑な思いを抱いているのは間違いない。実際にあの日から僕とは目を合わせてくれない。
「おまたせ。塗るからじっとしてて」
外で待っていると軟膏を持った唯織が出て来る。
「いや、塗るのは自分で出来るから」
「顔なんだから鏡がないと出来ないでしょ。ほらじっとして。恥ずかしがらない」
昔からそうだが、唯織は世話好きなくせに性格が大雑把なので傷に容赦なく押し付けて来るだろう。痛いのは誰だっていやに決まっている。
「俺が塗るよ。薬屋の息子がやった方が良いだろう」
「そう? じゃあお願い」
「ありがとう。大河」
「どうしてそんなに安堵の表情なわけ?」
最悪の場合、傷を広げられていた。それりゃ安堵だってする。
大河は慣れた手つきで傷に軟膏を塗る。殆ど痛みもなく薬品のツンとした匂いが鼻についただけであった。
「さすが近所の子供にお医者さんって言われてるだけあるね」
「これくらいは誰にでもできる。日に数回これを塗るように」
軟膏を渡されるが、払える金を持ち合わせていない。
「お金はいらないよ。サービス」
僕が反論するより先に大河は物置の方へ行ってしまう。
「これは私たちがしたくてしてることだから、朱鳥が負い目を感じる事はないと思うよ」
「うん。わかってる」
言葉ではそう言っても負い目は感じてしまう。僕にこうして心から優しくしてくれるのは唯織と大河だけだ。
「今から徒歩だと間に合わないからチャリ使っていいぞ」
大河は物置から出てきた自転車をひいて出てきた。
「僕だって走れるよ」
「昨日の無理が祟ってるんじゃないか? 唯織から聞いたぞ。走って逃げたって」
「……それは」
間違いなく逃げた。それに大河の言う通り昨日走って帰った所為で足は筋肉痛だった。この状態で道を走るのは確かに無理がある。
「それじゃ学校で」
僕に無理やり自転車を押し付けて大河は走っていく。ランニングのつもりなのだろうがかなりの速度が出ていた。僕の全力といい勝負かもしれない。あっという間に豆粒ほどの大きさになる。
「大河は大丈夫。体力バカだから」
「そうだね」
僕は二人の世話になってばかりで何も返せていない。
「僕たちも行こうか」
先ほどから大河の母親の視線が痛いほどに突き刺さっている。僕は会釈をして自転車に跨り逃げるように大河の家を後にした。
店の裏手に周り玄関までいくと唯織は遠慮なしに戸を開ける。
「大河いる?」
唯織が声を掛けると熊のような男が顔を出した。
「いるよ。うおっ! 派手にやられたな」
僕を見た大河は唯織とは違って少しおどけて傷口を指さす。
「やられてない。転んだだけ」
「はいはい。そこで待ってろ。軟膏持ってくるから。母さん救急箱ってどこ? え? どこの戸棚?」
「もう。事前に連絡したんだから用意しといてよ」
大河のもたつきに耐えかねた唯織は玄関を上がって入って行く。一方の僕は当事者なのにも関わらず一歩引いてこの状況を眺めていた。
大河の両親も僕の父の事業に賛同して投資した人たちの一人だ。結果があんな事になり僕に対して複雑な思いを抱いているのは間違いない。実際にあの日から僕とは目を合わせてくれない。
「おまたせ。塗るからじっとしてて」
外で待っていると軟膏を持った唯織が出て来る。
「いや、塗るのは自分で出来るから」
「顔なんだから鏡がないと出来ないでしょ。ほらじっとして。恥ずかしがらない」
昔からそうだが、唯織は世話好きなくせに性格が大雑把なので傷に容赦なく押し付けて来るだろう。痛いのは誰だっていやに決まっている。
「俺が塗るよ。薬屋の息子がやった方が良いだろう」
「そう? じゃあお願い」
「ありがとう。大河」
「どうしてそんなに安堵の表情なわけ?」
最悪の場合、傷を広げられていた。それりゃ安堵だってする。
大河は慣れた手つきで傷に軟膏を塗る。殆ど痛みもなく薬品のツンとした匂いが鼻についただけであった。
「さすが近所の子供にお医者さんって言われてるだけあるね」
「これくらいは誰にでもできる。日に数回これを塗るように」
軟膏を渡されるが、払える金を持ち合わせていない。
「お金はいらないよ。サービス」
僕が反論するより先に大河は物置の方へ行ってしまう。
「これは私たちがしたくてしてることだから、朱鳥が負い目を感じる事はないと思うよ」
「うん。わかってる」
言葉ではそう言っても負い目は感じてしまう。僕にこうして心から優しくしてくれるのは唯織と大河だけだ。
「今から徒歩だと間に合わないからチャリ使っていいぞ」
大河は物置から出てきた自転車をひいて出てきた。
「僕だって走れるよ」
「昨日の無理が祟ってるんじゃないか? 唯織から聞いたぞ。走って逃げたって」
「……それは」
間違いなく逃げた。それに大河の言う通り昨日走って帰った所為で足は筋肉痛だった。この状態で道を走るのは確かに無理がある。
「それじゃ学校で」
僕に無理やり自転車を押し付けて大河は走っていく。ランニングのつもりなのだろうがかなりの速度が出ていた。僕の全力といい勝負かもしれない。あっという間に豆粒ほどの大きさになる。
「大河は大丈夫。体力バカだから」
「そうだね」
僕は二人の世話になってばかりで何も返せていない。
「僕たちも行こうか」
先ほどから大河の母親の視線が痛いほどに突き刺さっている。僕は会釈をして自転車に跨り逃げるように大河の家を後にした。