顔で答えて、猫のストラップを握りしめた。
「ありがとう。大事にするよ……加成に伝え
ておくよ」
 林総理大臣はそう言い、彼との別れなど気
にしない女性秘書は早くと言われながらも林
総理大臣は車に乗り込んだ。
 彼は林総理大臣の乗る車を見えなくなるま
で見ていた。
 私はその姿をジッと見ていた。
 ただ松岡さんの横顔は何を考えているか分
からなかった。
 でもそれはまるで子どもに戻っているかの
ように幼い顔をしていた。
 私はただ松岡さんを眺めていた。
 声をかけることもなく、松岡さんを眺めて
いるだけが精一杯だった。
 彼は涙を流すこともなく、真っ直ぐな道を
ひたすら見つめているだけであったが、松岡
さんの目は前を向いている気がした。
「……陽琉、ありがとう」
 彼は古本屋『松岡』に入り私に礼を言った。
「いえ、大丈夫ですよ」
 そう言ってから、松岡さんは私の右肩に顔
を乗っけてきた。
「あの……まつ……おかさん」
「一分間だけジッとしてて。エネルギー補給」
 腰に手を回すこともなく、松岡さんの手は
ぶら下がっていた。
「五九……」
彼が数を数えていたら、三時のおやつを欲し
がるかのように彼女達は帰ってきた。
「ひよっち。ちょっと聞いてよ。くるみがさ、
なんか俺にカメラの指導交渉した理由がさ。
面白いんだぜ―昇哉さんとそんな関係になっ
ているとは」
「ちょ、ちょっと違うからね。陽和。私は何
も言ってないからね。あんな、馬鹿コバのこ
と信用しないでよ」
 私たちは、すぐに離れた。
 コバさんとくるみさんはやってきたが、言
い争っていた。
 来てすぐに言い争っていたので、私たちの
行為には気づかなかったようだ。
 でも良かった、見られていなくて。
 私はホッとした。
だが、まだ私の右肩には感触が残っていた。
右肩に触ると、胸がドキドキしていて、彼
が近くにいる感じがした。
「ひよっち。どうしたの、かたまって」
「陽和。私たちのこと聞いてる?」
 松岡さんは頬を赤らめていた。
 まずい。彼女達に私と彼が何かをしたに違
いないと感づかれるかもしれない。
「……ひよっち。腹減ってんのか?」
 私が予想もしていなかったことをコバさん
は心配そうに彼に聞いてきた。
 その表情に、私は笑いがこぼれ落ちそうだ
った。