今の話が理解できないのか、彼は感情が高
ぶっていた。
 林総理大臣は椅子から立ち上がって、ドア
の方に向かった。
 ドアにはSPか高身長の男性が立っていた。
「じゃあな、陽和」
 林総理大臣は、未完成のネコカフェを見渡
して松岡さんの想いを感じていたのか。数分、
立ち止まりネコカフェを眺めていた。
 そして、寂しそうな顔をしてフッと笑って
いた。林総理大臣の顔は、父親の顔になって
いて、私が知っている顔とは違くて、優しく
穏やかな表情をしていた。
「……ああ、じゃあな。元気でな」
 松岡さんはそれだけ言い、奥の部屋に行っ
た。
 林総理大臣は外へ出て行き、私は慌てて外
に出て声をかけた。
「林総理大臣」
「……あなたの言う通りでした。本当に私、
陽和のことをちゃんと見ていなかったんだ。
私が勝手だったんだな。あなたには色々教え
てもらいましたよ。ありがとう」
「……そんな。私はただ松岡さんの気持ちを
分かってほしかったんです。まさかそんな別
れ方をするなんて……」
「いいんですよ。むしろ、陽和が私に会って
くれるだけで奇跡なんですから」
 林総理大臣は、ニコっと笑顔で答えた。
 その顔はまるで松岡さんに似ていた。
「……これでいいんですか?」
「はい、私と陽和で決めたことですから。そ
ろそろ行かないと……」
 高身長のSPの男性と秘書の女性が林総理
大臣、早くして下さいと言っていた。
 林総理大臣はそれに応えて、ああと言い、
車に乗り込んだ。
 その時、慌てて松岡さんが出てきた。
 林総理大臣はそれに気づき、また車から外
に出て彼の元へ行った。
「親父。これ」
 右手に何かを持ち、松岡さんは林総理大臣
に渡した。
 それは、猫のストラップであった。
 確か、これは松岡さんが持っていた猫のス
トラップ。
 林総理大臣と松岡さんの思い出かな?
「……これ? 私があげた猫のストラップ。
まだ持ってたのか」
 松岡さんが持っていた猫のストラップって
林総理大臣にもらったものだったんだ。
「違うよ、これは猫のストラップだけど、自
分で作ったんだよ。これは親父の分。後、弟
によろしく伝えて」
 彼は林総理大臣の右手を掴み、猫のストラ
ップを渡した。
 目を丸くして、林総理大臣は驚きつつも笑