とをちゃんと見てあげて」
 少し悲しい顔をして彼はニコっと笑顔で林
総理大臣にしていた。 
 その笑顔は自分の心を抑えているように見
えた。この前と同じような笑顔をしていた。
「……陽和。私はお前の気持ち分かっていな
かったのか」
「親父」
 松岡さんは林総理大臣の名を呼んで、俯い
ていた。
「……そうか、分かったよ。俺が悪かった。
これでもう終わりにしよう。もうお金も送ら
ない、ここにも来ない。だから、最後に私の
遺言だと思って聞いてくれ」
 林総理大臣はそう言い、松岡さんは俯いて
いた顔が少しずつ上がっていた。
「なんですか?」
「……私はあの時、あのようにしたのは理由
があるんだ。ストレスが溜まっていたのかも
しれない。私はあの時のことを覚えていない
んだ。全く以って。母さんにもそのことを言
ったよ。母さんは冷静だったよ、本当に。そ
したら、病院に行こうって言われてね。病院
に行ったら、解離性同一性障害と言われたよ。
今は、病状も安定している」
「……」
 彼は黙って、林総理大臣を見ていた。
 私は松岡さんを見て、顔色ひとつ変えなか
ったので驚いた。
「なんか言ってくれないか? 陽和。私が困
るじゃないか?」
「……解離性同一性障害ってことは、本当の
親父じゃなかったってこと」
 彼は瞬きをしないで、林総理大臣に一点を
集中させいた。
「ああ、そうだよ」
 瞼を閉じて松岡さんにいつもより優しい声
で林総理大臣は言った。
「……そんなこと言われても分からないよ。
親父は本当にそんな人じゃないって思ってた
ら、色々考えたのに……そんなことあんのか
よ! 俺もうわかんねぇよ。どうすればいい
んだよ。障害とかもうわかんねぇよ」
「……障害だけど、ネコを殺したことは変わ
らない。だから、私は陽和にそれだけ言いた
かった。陽和には感謝している。聞いてくれ
てありがとう。私は間違っていたんだな。早
く来れば良かった、本当に」
 林総理大臣は何処かを見下ろしていた。
「……そうだよ、本当に。親父、時間じゃな
いか?」
 彼は、時計を指差していた。
「……そうだな」
 林総理大臣は松岡さんを見てから何か言い
たげそうに見つめていた。それに気づいたの
か彼は口を開けた。
「……早くいけよ。待ってんだろ」