「陽和。なんで私よりさっきに言うの!」
 彼女はさっきに言ったのが気に食わなかっ
たのか、はあ? という顔をして彼を見てい
た。
「別にいいじゃん。くるみが言うのが遅いん
だろ」
 くるみさんに反論して彼は意地悪そうに言
った。
「もう! 私さっきに帰る。コバも付いてき
て」
 子どものように顔を膨らませて、彼女はい
じけていた。
「はあ? くるみ一人で行けよ!」
 一人で帰ると思いきやコバさんを連れてど
こかに行こうとしていた。
「いいでしょ! どっか行くよ」
 なぜか私と松岡さんの方を見て、彼は諦め
たような声で言った。
「……はあ、分かったよ。行きますよ、くる
み様にはかなわねぇな」
「なんて言った? コバ」
 ニコッと彼女は不敵な笑みを浮かべていた。
「はいはい、行きま―す」
 くるみさん達はカバンを持ち、二人とも私
を見て少し笑いかけてから足早に去っていた。  
 その笑いが、何を意味するのか理解出来な
かった。
「行っちゃいましたね。二人とも」
「ああ、行ったな。くるみ達いてもよかった
のに。俺そんなキツイこと言ったのかな?」
 松岡さんは、ポツリと私に言い放った。二
人がいないせいか静かに感じた。
 私は何を言えばいいか分からず黙っていた。
 彼はそれを察したのか、私にさっき程話し
ていた続きを聞いてきた。
「……あのさ、陽琉。さっきのことだけど、
俺とくるみが言いたいのは夢を叶えるために
陽琉は、頑張ってるってこと」
 私は、彼の目を見た。私の為に分かりやす
く彼なりの言葉で私に訴えていた。
「……頑張ってるって……なんですか? あ
の二人みたいに私もやりたい仕事につけまし
た。でも、本当にやりたい仕事には就けてい
ない。就職できても、嬉しいような悲しいよ
うな、分からないんです。もう私……どうし
たらいいんですか」
 私は声を出すこともなく、静かに涙を流し
ていた。
 人前で泣いたことなんて、人生であまりな
かった。
 それなのに人前で泣くのは、何年振りだろ
う?
 昔から何も出来なくて、誰の役にも立てな
くてどうしたらいいかわからなかった。
 だから自分に強くありたいと、知識を身に
つけて男性に負けないくらいの知識をつけた
と私は思う。
 なのに、今の自分じゃ夢なんて叶えている
のだろうか。