「ひよっち。俺なんてまだまだなんだから」
「いや、そんなことない。少しずつカメラマ
ンになる夢、近づいてるよ」
「ひよ―っぢ」
 コバさんは松岡さんの名前を呼び、涙を流
しながら彼の胸に抱きついていた。
 彼は、コバさんをよしよしと子どものよう
にあやしていた。
 くるみさんも涙を流していた。
 その状況に夢を叶えるということは、難し
いことなのだと痛感した。
 この古本屋『松岡』が出来てから、五年。
 夢を叶えるために、自分で努力して、バイ
トもして、どういうふうに夢を叶えるのか考
えてきたのだろう。
 それなのに私は何をしているのだろうか。 
 就活を終えて、仕事は決まった。
 好きな仕事が決まったはずなのに、なんで
こんな夢が叶った気がしないんだ。
 私の叶えたい夢は、仕事をしながら小説家
になることだ。
 でも、それでなれるのか不安になった。
「……みなさん、いいですね。私なんか夢な
んて叶えたのかな」
 私は黒目を右に向けて、三人を見ないよう
に心の中で思っていることを言っていた。
「陽琉、そんなことないよ。陽琉は頑張って
るよ。仕事だって決まったし」
 彼は、涙を拭いながら私に言ってくれた。
「……分からないんです。私」
 私は、また下を俯き言った。
「……何が?」
 くるみさんは、鼻をすすりながら私の方を
きちんと見て返答してくれた。
「私なりに夢は叶えました。でも、今くるみ
さんとコバさんを見ていたら、本当に夢を叶
えたのかと思って」
 くるみさんとコバさんは、動作を止めて私
の方を見てきた。
「ふ―ん、夢なんてお前が考えれば考えるほ
ど夢なんて叶わないんだよ。だから、今の現
状を頑張ればいいと思うけど、俺は」
 コバさんは涙を右手でふき取りながら何も
なかったように携帯を弄って、私に向かって
言っているように思われる。
「コバさん」
「お前なんて一生考えてればいいんだよ」
 彼は、フッと鼻で笑っていた。
「はあ、コバ。珍しくいい事言ったと思った
のに。なんでそんなこと言うかな! 陽琉。
私はね夢は叶うって信じることだと思うよ。
だからね、私が言いたいことは……」
「陽琉は夢を叶うために頑張ってる」
 松岡さんは、くるみさんの話を妨げて真っ
直ぐな目で私に言った。