涙出そう。もうそんな笑顔しないで。
「陽琉?」
 松岡さんは、ボケッとした顔で私に話しか
けてきた。瞬時に私は下を向いて俯いた。
「陽琉、どうした?」
 私を心配してくれたのかくるみさんが私に
話しかけてくれた。
 私はくるみさんの声に我に返り、目に涙を
浮かびそうになる目を抑えて顔をあげた。
「……あ、はい。大丈夫です」
「本当? 大丈夫?」
 くるみさんは腕を組み、私を心配そうに見
てきた。
「大丈夫です。松岡さん見せて下さい」
 松岡さんに私はそう言うと、松岡さんは黙
っていた。
「松岡さん?」
「陽琉、黙ってないでなんか言っていいよ。  
言いたいことあるんでしょ?」
 え? なんで、そんなこと聞くの。
 松岡さん、私にそんな優しくしないでよ、    
 私勘違いしちゃうから。
「なんでもないですよ、松岡さん」
 私は無理に笑顔を作り松岡さんに言った。
「……そうか、分かった。ほらこれ見ろよ」
 松岡さんは、真面目な顔から笑顔で私に言
った。
 私は、雑誌を松岡さんから受け取った。
 だが、その時に私の右手が松岡さんの手に
触れた。
 その際に、彼は私の手をギュと掴んできた。
 なんでそんなことするの。なんで、やめて
よ、私のこと好きなの?
 胸がドキドキしている。
「あ、え、ありがとうございます」
 彼は、私の目を見て雑誌を渡してきた。
「はい」
 私の気持ちのことなんて知らないで、無邪
気な笑顔で笑いかけてきた。
 もうやめてよ、そんな笑顔をすると自分の
夢考えられなくなるじゃない。
「あ、それよりコバ。昇哉さんとあれから連
絡できたか?」
 酒を飲み終わり彼は、スマホを弄り何かを
検索していた。
「……ああ連絡したよ。昇哉さんからまた会
ってカメラの話しませんかって言われたよ」
「そうか一歩前進だな。お前ら良かったな。
本当に五年もやってきてやっと前進したな。
俺、また泣きそうだわ」
 さっきも泣いたのに彼は涙が溢れ出ていた。
 でもその涙は、嬉しいから泣いているのか
悲しいから泣いているのかどちらの涙なのだ
ろう。
 彼は相手のために泣いているようだが、自
分の悲しさを嬉しさの涙に変えているように
私は見えた。
「陽和、もうやめてよ。私もまた泣きそうだ
よ」