自分のスーツ姿を鏡で見ていた。
「よし! 私、イケてる。大丈夫!」
自分のスーツ姿を見ながら、私自身に勇気
付けていた。そう、今日はなんといっても最
終面接なのだ。
自分の顔を鏡で見てから、気合いを入れる
ため顔をバンと叩いた。大事な書類がカバン
に入っていることを確認して部屋を出た。
階段を駆け下りて、母親が私に声をかけて
きた。
もう分かってるよ。いつものあれだよ。
私が頑張る時にいつも渡してくる。
本当にそれが不安にさせるんだよ。
頑張れ、頑張れって。
私なりに頑張ってるんだよ。
「はい、これ。頑張ってね!」
「……」
笑顔で話しかけてきた母親は右手にのど飴
を持ち、私にのど飴を渡そうとしていた。
私は靴を履いて、後ろを振り返って母親と
向き合った。
「どうしたの? 持ってきなさい」
「いらない」
「どうしたの? いつもは持ってくじゃない」
「いらないって! 私はのど飴なくたって頑
張れるから、母さん。私は私なりに頑張って
るから。自分の手で掴んでくるから」
睨めつけるように母親を見てから、外に出
た。母親は、私のことを呼んでいたが、そん
なの気にしなかった。自分がやりたいと思え
る仕事を見つける。
それを叶えるために私は前を向いて、真っ
直ぐに背筋をピンと伸ばして歩いた。
数日後
「内定もらえました!」
私は出版社に採用された。だが、田中さん
の出版社ではない。漫画と小説をコラボして
いる会社である。漫画を描きつつもその原作
漫画を小説化していくのだ。
私が掴んで得た会社だ。
私は松岡さん達に報告した。
「良かったな、本当に。どうなることかと思
ったけど」
松岡さんは、この間の出来事がなかったか
のように私が就職できたことを心よく祝って
くれた。まだ彼の心は不完全なはずなのに。
「良かったじゃん」
「良かったわね。つ―か、あんた就活生だっ
たのね。知らなかったわ」
松岡さん達らしい言葉でねぎらってくれた。
今日は、全員集合していた。
コバさんとくるみさんは、バイトがないか
ら暇だから来てみたと言い、古本屋『松岡』
に来ていた。
「ありがとうございます」
床に座っていたので、私は立ち上がり松岡
さん達に礼をした。
三人は床に座って、一人ひとり楽しみなが
ら新聞を読んだり、酒を飲んだり、雑誌を読
んでいた。
私は松岡さんにこっそりと聞いた。
私が就職できたということを聞ききつけて、
コバさんとくるみさんが駆けつけてくれたと
教えてくれた。
本当に有難くて、やはり優しい人達なんだ
と思った。
「陽琉、大変だったんだよな。お前らちゃん
と聞いてるか!」
「聞いてるよ、ひよっち」
「聞いてるよ。陽和それより、新聞読んでて
いいの?」
雑誌をペラペラめくって、くるみさんは黒
目を動かして松岡さんを見た。
酒を一口飲みコップを右手に握りしめて、
コバさんは聞き耳を立てていた。
「全部俺が思ってること言ったから問題ない
よ」
「それなら言いけど……なんか人任せし過ぎ
ている気がして」
「そんなことないよ。ちゃんと説明してある
から工事には影響ないから。もしなんかあっ