どこにもいないし。だから、外にいるかなと
思って、探してたらコバさんいたんで」
「……なんなんだよ、お前」
 両手に頭を抱えて元々髪がグチャグチャで
あったがもっと乱れていた。
 でも嬉しそうに言っていたように見えた。
「心配してますよ、松岡さん。答えたくなか
ったらいいんですけど、あの林総理大臣とな
んかあったんですか?」
 さりげなく私はコバさんに聞いた。
「……俺たちは中学一年生に出会ったんだ。
ひよっちは、転校生としてやってきたんだ。
ひよっちの親父は、まだその頃は総理大臣じ
ゃなかった。新米の議員だった。だから、普
通の転校生が来たと思った。来る前から父親
が議員だって噂になって知ってたけど、面白
くて楽しい奴だったから。すぐみんなと仲良
くなれたんだ。ある時だった。あの時から変
わり始めたんだ。あの親父は」
「あの時って?」
 私は首を傾げた。
「……ある派閥に入ったんだ」
「派閥?」
「ああ、あの親父は一番たち悪い派閥に入っ
たんだ。本当に悪い噂しか流されない派閥だ
ったんだ。そんな所に入るのは少人数だった。
その少人数にあいつが入ったんだ。入った本
当の理由は、俺はよく分からない。でもひよ
っち言ってたんだ。親父すごい人になるんだ。
やっぱ親父はすげぇやって。あの噂は知って
たと思う。でも尊敬してたんだよな」
「松岡さんは、そんなに林総理大臣を尊敬し
ていたのに何でですか?」 
 ジッと私を見てから目を逸らして、晴れて
いる空を見た。
「……あの空みたいにあの親父は晴れ過ぎて
いたのかもしれない。真っ直ぐで上しかみて
なかったんだよ。ひよっちの気持ちは置き去
りにして」
「林総理大臣が、松岡さんの気持ちを理解し
なかったからですか。それは忙しいから仕方
ないことではないのですか?」
「お前、分かってないな。あいつはな、お前
が思っているほど余裕なんてなかったんだよ。
あいつは、ひよっちが大好きなネコを殺した
んだよ」
 私は目を丸くした。まさか、あの林総理大
臣が。議員に優しくて、国民の支持を集めて
いる人が。
「え? あの林総理大臣がまさか」
 コバさんは、ブランコから降りて言った。
「そのまさかだよ。あいつは、政治界に入っ
たのは総理大臣になるためだからなんでもや
ってたよ。どんな仕事でも。あの派閥に入っ